海運最大手マースクが「アルコールランプの燃料」で動く大型コンテナ船を発注 いったいなぜ?
マースクが目指すGHGゼロの挑戦
マースクがメタノール燃料コンテナ船を新造整備する背景には、同社が2040年までにグループ全体でGHG(温室効果ガス)排出量を正味ゼロ(ネットゼロ)にする目標を掲げていることがあげられる。同社は今後、所有するすべての新造船にDF機関を搭載し、カーボンニュートラル運航に対応することを目指すという。
メタノールはCO2を分離・回収して再利用する技術によって人工的に製造される「カーボンリサイクル燃料」で、GHG排出ゼロに向けた選択肢のひとつとして位置づけられている。従来の燃料に比べてスモッグの原因となる硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などの排出が非常に少なく、日本企業でも日本郵船や商船三井がメタノール輸送でメタノール燃料船を導入している。
CO2の排出量は、天然ガスで製造した場合は10%程度の削減にとどまるが、再生可能エネルギー由来のグリーンメタノールであれば90%の削減が可能になる。また、メタノールは液体のため取り扱いが容易で、既存の貯蔵・燃料補給インフラの改造コストが低く抑えることができる。
マースクはメタノールで自社船隊のカーボンニュートラル化を図ろうとしており、新たに建造する大型コンテナ船には太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー由来の合成「e-メタノール」や、都市ごみ・農業廃棄物などを原料とする「バイオメタノール」が燃料として採用されることになる。
安定供給に課題
ただ、現在のメタノールの生産規模で12隻の大型コンテナ船が、安定したゼロエミッション運航を行えるかについては課題が残っている。メタノールを燃料とする船舶のために十分な量のグリーンメタノールを調達するには、大幅な生産能力の増強が必要だ。
マースクのソーレン・スコウ最高経営責任者(CEO)も「運航初日から十分な量のカーボンニュートラル・メタノールを調達することは困難だ」と認めている。
同社はカーボンニュートラルなメタノールの生産規模を拡大し、船舶運航に必要な燃料の安定供給を確保するため、環境に優しい方法でメタノールの製造を試みている企業との協力関係を深めている。
2021年7月には、先行して建造が決まった2100TEU型メタノール燃料船が消費する年間約1万tのe-メタノールを生産するため、デンマークの再生可能エネルギー企業、ヨーロピアン・エナジーと子会社のリインテグレート(Reintegrate)が、同国に新しい施設を建設する予定だと発表した。
同施設では、2023年から再生可能エネルギーとバイオ廃棄物由来のCO2を原料としてe-メタノールの生産を行う予定。必要な再生可能エネルギーは、南デンマークのカッソーにある太陽光発電所から供給される。