イラストレーター「わたせせいぞう」が描いてきた昭和~令和という時代、対象はクルマから鉄道へ その魅力とは【連載】移動と文化の交差点(4)
80年代の純愛物語

わたせは1983(昭和58)年に「モーニング」(講談社)に連載された『ハートカクテル』で一躍有名になった。都会の男女のおしゃれな恋愛を描いた短編集で、1986年にアニメ化もされた。彼の作品の特徴は、グラフィックデザイン風のレイアウトと、色彩も鮮やかなカラーバリエーションで、陰影とグラデーションが見事に表現されていた。
そのほとんどの作品は1話4ページで構成されていた。物語のテーマは「純愛」で、小説家アーウィン・ショーら『ニューヨーカー』誌の作家のテイストに近かった。一方、どちらかといえば西海岸のように見えた。なお、登場人物は日本名である。
村上春樹の『風の歌を聴け』に出てくるジェイズ・バーをほうふつとさせる「ジェシーズ・バー」が、物語のなかに頻繁に登場した。登場人物は当時流行していたトラッドファッションに身を包んでいることが多く、バブル期がよみがえる。
作中には青い海、青い空、白い雲がふんだんに出てくるが、具体的な明確な場所は描かれておらず、架空の場所が舞台となっている。イラストレーターの永井博と鈴木英人は、湘南を直接描くことなく、湘南を想起させる作品を数多く生み出した。『ハートカクテル』における米国と似ている。
連載は1989(平成元)年に終了、バブルに至る過程とともにある作品だった。
作中のカラフルな自動車たち

わたせの作品には、鈴木英人のイラストにも登場する旧型ビートル(フォルクスワーゲン)がしばしば登場する。
そういえば同時期の、1982(昭和57)年に発売された山下達郎のアルバム『FOR YOU』のイラストは鈴木英人の作品である。作風もグラデーションを使っており、自動車や港などのモチーフがよく登場した。わたせの作品と手法に共通点が見い出せる。
わたせの描く自動車は丸みを帯びた曲線美が特徴で、
・ビートル
・TR-3(トライアンフ)
・カルマンギア(フォルクスワーゲン)
そしてオープンカーもよく登場した。今ではヴィンテージカーである。
作品はカラーで描かれているので、同じくグラデーションを多用した『タンタン』を描いたベルギーの漫画家・エルジェに代表されるように、カラーで描かれたバンド・デシネ(フランスの漫画)に近いかもしれない。