深夜の高速名物「0時待ちトラック」 私が“新深夜割引制度”の廃止を今すぐ求める4つの理由
新ETC深夜割引制度のポイント

現行の深夜割引制度が導入されたのは2004(平成16)年度である。目的は、一般道を走るトラックの騒音問題を解消し、沿道環境を改善することにあった。以降、一時期割引率が40%や50%に変更されたことはあったが、現在まで継続されている。
今回、深夜割引を改定する目的として、NEXCO3社が挙げたのは以下である。
1.「0時待ち渋滞」の解消
2.現行の深夜割引制度が、ドライバーの深夜労働を招き、結果として労働環境の悪化につながっていることへの反省
加えて、サービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)で問題となっている駐車マス不足の解消も狙っているものと筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は考えている。詳しくは後述するが、新たな深夜割引制度は、深夜帯のトラック運行を促進するものであり(その意味で「2」の目的は破綻している)、結果、深夜帯にドライバーがSA・PAで休憩・休息を行うことで発生している駐車マス不足の解消にもつながるからだ。
NEXCO3社が国土交通省と検討を行い、2023年1月に発表した新たな高速道路深夜割引制度の概要を挙げる。
・ETCを搭載し、NEXCO3社(NEXCO東日本、NEXCO中日本、NEXCO西日本)が管轄する対象区間を走行した全車両が対象
・割引適用時間帯は、22時から翌5時の間
・割引適用時間帯に走行した分だけが3割引
・400km超の走行を対象に長距離逓減制を拡充(40%~最大50%)
・割引は、ポイント還元で実施
新深夜割引制度について、筆者が四つの問題があると考える。
ひとつ目は「値上げである」こと。もちろん今の御時世、値上げを無条件に悪と決めつけることは適切ではない。だが、本件は社会のインフラたるトラック輸送ビジネスの採算性に大きな影響を与える制度変更であり、値上げをするにしても、もっと適切な値上げの制度設計があるはずだ。
ふたつ目は、「割引がポイント還元で行われる」こと。現行制度では、(トラックに限らず)深夜割引が適用された場合、請求される高速料金は、正規料金に対し深夜割引の30%が差し引かれた金額である。だが新制度では、請求金額はあくまで正規の高速料金であり、割引相当分の30%は後日ポイント還元される。国内運送会社の8割は従業員30人以下である。経営基盤が弱い会社もあり、そういった会社では、キャッシュフローの問題を生じかねない。
三つ目は、「分かりにくい」こと。具体的に説明しよう。例えば、1回の運行で高速道路上を1000km走行するトラックがあったとする。現行制度では、例えば999km走行した時点で23時59分でも、残りの1kmを0時以降(= 割引適用時間帯)に走行すれば、1000kmすべての高速料金が割引される。
新制度では、例えば999km走行した時点で21時59分で、残りの1kmを22時以降(= 割引適用時間帯)に走行すると、割引されるのは1km分の高速料金であり、999km分の高速料金は割引されず、正規料金を請求される。このような制度自体の複雑さに加え、新制度では事前に正確な割引金額を運送会社側が把握することが難しくなりそうだ。
というのも、新制度では、高速道路内に新たに設置されたETC無線通信専用アンテナで車両ごとの通行記録を収集するからである。アンテナがどれくらいの間隔で設置されるのかは現時点で不明だが、当然、割引適用時間帯に走行した真の走行距離と、アンテナが測定した走行距離には誤差が生じるだろう(アンテナが測定した距離のほうが短くなるはずだ)。
四つ目は、新制度が「現行の物流プロセスの変更を強いる」ことである。これが最大の問題だと筆者は考えている。前述のとおり、新制度における割引対象は、22時から5時の間に走行した距離だけである。となれば、例えば日中近場で運行し、夕方から長距離荷物を積み込み、目的地に向かってコンプライアンスの範囲内で高速道路を走行した後、夜から朝にかけてSA・PAで休息を取るといった運行はしにくくなる。
このような運行では、深夜割引が一切適用されず、現行制度の恩恵もゼロになった結果、高速料金が約4割も上昇するケースも出るだろう。新制度では、とにかく22時から翌5時の間は走行し続けないとメリットがどんどん失われていくからである。
現在の、特に長距離輸送における物流プロセスは、現行の深夜割引制度に大きな影響を受けている。新制度に変われば、工場や物流センターなどにおける出荷・入荷や、小売店などにおける荷受けも、これまでの時間から変更を強いられる可能性が高い。
新制度では、「(適用時間帯の開始時刻となる)22時に、できるだけ近い時間にトラックを出発させたい」と考える荷主も出てくるだろう。となれば、荷主側の物流担当者や倉庫作業員らも、今までよりも
「遅い時間」
まで勤務せざるを得なくなるかもしれない。そうなれば、出荷前に行われる仕分け作業などの庫内作業の時間帯も見直しを求められるケースは多発するだろう。