日本はなぜ「自転車専用レーン」の整備が遅れているのか? そもそも利用者が少ない根本原因も考える

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新型コロナウイルス以降、自転車の利用は増加しているが、専用レーンの整備が進んでいない。その理由は何か。

車両相互事故が引き起こす問題

自転車専用レーン(画像:写真AC)
自転車専用レーン(画像:写真AC)

 昨今の自転車事故の増加を受けて、警察庁は16歳以上の自転車を対象とした「青切符」の導入を決めた。同庁の資料によれば、2022年度中の自転車関連の事故は6万9985件で、割合は

・車両相互(6万1882件、88%)
・人対車両(2905件、4%)

で、その大半は車両相互(自転車同士の事故)となっている。事故増加の一因として、

「自転車専用レーンの整備不足」

が指摘されている。新型コロナウイルス以降、自転車の利用は増加しているが、専用レーンの整備が進んでいない。その理由は何か。

東京都の実績と課題

2019年度末時点の自転車通行空間の整備済み区間(画像:東京都)
2019年度末時点の自転車通行空間の整備済み区間(画像:東京都)

 専用レーンの整備は、多くの都市で都市計画上の重要な課題として認識されている。例えば、東京都は2021年から10年間で約600kmの専用レーンを整備する計画を発表している。

 この計画を示した「東京都自転車通行空間整備推進計画」には、2019年度末までの整備状況が示されている。それによれば、東京都の自転車通行空間の整備状況は、次のとおりだ。

・自転車道:15km
・普通自転車専用通行帯(専用レーン):102km
・車道混在(自転車ナビマーク・自転車ナビライン):6km
・自転車歩行者道(構造的分離):50km
・自転車歩行者道(視覚的分離):88km
・水道敷や河川敷等を利用した自転車歩行者道:44km
・合計:305km

 しかし整備が進んでも、これらの専用レーンが十分に利用されているわけではない。例えば、青色の舗装で示された専用レーンがあるエリアでも、依然として多くの自転車が歩道を走行しているのだ。

専用レーンを使う人が少ないワケ

自転車に乗る人(画像:写真AC)
自転車に乗る人(画像:写真AC)

 なぜ、専用レーンを使う人が少ないのか。問題は構造と運用方法にある。日本の専用レーンは、最大で1.5m、最小でも1mの幅に限定されており、この“狭さ”が自転車にとって非常に使いにくい環境を生み出している。

 自転車はこの狭い専用レーンに入らざるを得ず、追い越しが難しくなる。自転車のハンドル幅はおよそ60cmなので、1mの車線は、自転車が他の自転車を追い越すために“車道に出ざるを得ない状況”を作り出す。このため、専用レーンを走っていた自転車が突然車道に出ることになり、自動車にとって予期せぬ障害となり、事故のリスクが高まる。

 専用レーンができたことで、以前よりも自転車が走りにくくなったと指摘する人もいる。以前は自転車が車道の左側をきちんと走っていたため、自動車も自転車に配慮することができたが、専用レーンが設けられたことによって自転車が走りにくくなった。

 専用レーン内駐車の法的根拠は不明確で、地域によって駐車が許可されていたり禁止されていたりするため、自動車は混乱しやすい。駐車が禁止されていない地域では、車両が専用レーンに駐車していることが多く、自転車が車道から飛び出して追い越すケースもある。

 また、自動車と自転車を隔てる物理的なフェンスがないことも、心理的な不安を引き起こしている。子どもを乗せた“ママチャリ”にとっては、絶対に利用したくない構造なのだ。

 さらに、整備されていても、自転車歩行者道の

・構造的分離
・視覚的分離

が生かされていない。前者は植栽などで分離を示すのに対し、後者は舗装の色分けで分離を示すという違いがある。どちらの場合も、歩道との境目がない平らな構造である。これは、自転車と歩行者の事故を引き起こす構造と考えられている。

 このような構造の道路では、朝夕のラッシュ時に歩行者が自転車走行部分からはみ出して歩くことが日常茶飯事である。

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