最近「ミニバン」「SUV」「トールワゴン」ばかり見かけるワケ かつての“カッコいいクルマ”はどこへいったのか?
スズキ・ワゴンRの登場

バブル崩壊後の1993(平成5)年9月、それまでになかったスタイルの軽自動車が登場した。個性的なデザインと使い勝手の良さが評価され、瞬く間にベストセラーモデルとなったスズキ・ワゴンRだ。
1993年から1998年まで、初代ワゴンRは累計90万台を販売。その後も快進撃を続け、2012年にダイハツ・ミラとホンダN-BOXに抜かれるまで販売ランキング1位をキープした。ワゴンRは、現在につながる軽自動車トールワゴンのルーツであることは間違いない。そして、それがバブル崩壊後の混乱のなかで誕生したことに大きな意味がある。
バブル経済の崩壊は、社会全体の閉塞(へいそく)感だけに止まらず、地価や株価の下落は庶民の資産形成にも極めて大きな影響を与えた。内閣府「国民経済計算」によると、バブル絶頂期の1990年末、日本の土地資産総額は2456兆円。その約6割を一般住宅が占めていたといわれる。それが2006年には1228兆円にまで激減した。つまり、わずか15年余りで国民の資産は半減したのである。
このような厳しい経済環境では、クルマに対する考え方そのものが変わって当然である。少人数しか乗れないスポーツカーではなく、家族や友人を乗せて移動でき、リセールバリュー(再販価値)の高いミニバンに注目が集まった。また、価格が安いだけでなく、維持費も格段に安い軽自動車に目を向ける人が増えているのも自然なことだ。
しかし、経済的苦境が単に個性のない軽自動車への流れにつながったわけではない。実用品であると同時に趣味の対象でもあったクルマにとっては厳しい状況だった。
時代は少しさかのぼり、1990年5月、空力ボディとミドシップエンジンを搭載したトヨタ・エスティマが発売された。発売から1年後、エスティマはバブル崩壊の危機に直面していた。しかし、それまでのワンボックスワゴンとは一線を画す「ミニバン」というカテゴリーを創出したことで、エスティマはバブル崩壊後の混乱を見事に乗り切り、ロングセラーモデルとなった。