最近「ミニバン」「SUV」「トールワゴン」ばかり見かけるワケ かつての“カッコいいクルマ”はどこへいったのか?
平成初期の日本の自動車産業
1990(平成2)年、バブル絶頂期の日本の自動車産業は、まさにわが世の春を謳歌(おうか)していた。免許取りたての若者から、それまで平凡なセダンを自家用車としていた中高年まで、誰よりもいいクルマを求める人々によって市場は活性化していた。
ここで人気があったのは、多少高くてもカッコいいクルマだった。カッコいいというのは、単にスタイルやデザインがいいという意味ではない。ある意味、オーナーのライフスタイルまで豊かにしてくれるのがクルマの特徴だった。
ホンダNSX(1990年9月発売)は、アルミモノコックボディの高価なミッドシップスポーツカーだった。日産シーマ(1988年1月発売)は、欧州車を思わせる高級感と圧倒的なパワーを持つ大型セダン。トヨタ・セルシオ(1989年10月発売)は、国際市場向けに新設されたブランドのプレミアムセダン。ユーノス・コスモ(1990年4月発売)は、名前自体は前モデルから引き継いだものの、専用の3ローターエンジンを搭載した前代未聞のスペシャルモデル。これらはスポーツカー、高級セダンのカテゴリーを問わず、当時のクルマ好きを世代を超えて喜ばせたカッコいいクルマだった。
もちろん、売れたのはこうしたクルマだけではない。日本の自動車産業を支えていたのは、大量生産される小型車や軽自動車だった。しかし、バブル経済の勢いは、何の変哲もない実用車のカテゴリーでもカッコよさを前面に押し出したクルマをももたらした。
1990年3月、トヨタは一風変わったデザインのセラを発売した。メカニカルな部分は、当時トヨタのラインアップの“末弟”だったスターレットをベースにしている。
しかし、セラはキュートな卵型のボディシェルと大きなガラストップを持っていた。また、バタフライウイングドアと呼ばれる一種のガルウイングドアを採用していた。
それまでガルウイングドアは、いわゆるスーパーカーにしか許されない特別な機構だった。それが量産小型車に適用されたという事実。ある種の無謀ささえも許容された時代だった。
バブル期には他にも個性的なモデルが多く、特にデザインだけでなくオーナーのライフスタイルに踏み込んだクルマが多かった。正直なところ、そのすべてを挙げると相当な文字数が必要になる。そして、それは今回のテーマではない。
バブル期のわかりやすくてカッコいいクルマの多くは、バブルの終焉(しゅうえん)とともに姿を消した。今でも車名が続いているモデルもあるが、もはや少数派である。