MRJの失敗は必然だった? 元航空機エンジニアの私が感じた「うぬぼれ技術者」発言への違和感、部下への責任転嫁に民間産業の未来なし

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三菱航空機の社長として一時期のMSJ開発を率いた川井昭陽(てるあき)氏が、テレビ愛知のインタビューに対し、日本人技術者の「うぬぼれ」が失敗の理由だと発言し、一部のひんしゅくを買っている。いったいなぜか。

過去の経験に依存した計画の問題点

滑走試験を行う三菱航空機の「三菱スペースジェット」。アメリカ・ワシントン州モーゼスレイクにて。2019年12月10日撮影(画像:時事)
滑走試験を行う三菱航空機の「三菱スペースジェット」。アメリカ・ワシントン州モーゼスレイクにて。2019年12月10日撮影(画像:時事)

 しかし、MSJは日本の国産機であるにも関わらず、

「FAAの型式証明しか意識されていない」

ことが、このプロジェクトの本質的な異常性を示している。

 米国へ輸出するMSJにFAAの型式証明が必要なのは当然だが、それ以前に必要なのは設計製造国である日本の型式証明だ。航空機の型式証明審査に関して、国際民間航空条約(シカゴ条約)では

「設計国が世界に対し第一義的な責任を有する」

としている。

 米国の政府機関であるFAAには日本企業が日本で行う事業を審査する権限はなく、MSJの設計や製造を審査して承認する責任を負うのは日本の航空局(JCAB)だ。それにも関わらず、関係者を含む多くの人たちがFAAの型式証明だけに目を向けていたのは、過去の経験に引きずられた思い込みのためである。

 日本では民間航空機の開発機会が少ないため、JCABに新型旅客機の型式証明審査が行えるような常設部門はない。しかし、過去には

・YS-11
・MU-300

といった開発でFAAの型式証明を取得して輸出につなげた実績があり、MSJの型式証明も同じスキーム、すなわちJCABとFAAの証明を同時に取得する方針で計画された。

日本人の意識から消えた本来のプロセス

国土交通省のウェブサイト(画像:国土交通省)
国土交通省のウェブサイト(画像:国土交通省)

 だが、この方針を採用したとしても、設計段階での審査や製造工程の審査を行うのはJCABでなければならない。輸入国であるFAAは、米国国内でMSJを飛ばすことを認めるかどうかを判断する立場なので、米国に持ち込まれた試作機の審査が基本になる。

 川井氏がMU-300の開発で担当していたのは、試作機の飛行試験などFAA審査への対応であって、国内での設計段階の審査ではない。そのため、川井氏も試作機に対するFAAの審査が型式証明の本丸だと考えたのだろう。

 川井氏だけでなく、日本のメディアがYS-11などの開発を語る消費者向けの物語でも、FAAによる審査がドラマチックに描かれることが多い。

「JCABによる設計や製造の承認」

という本来のプロセスが、日本人の意識から消えているのである。

 だが、現代の旅客機開発という巨大プロジェクトでは、試作まで終えているFAA審査の段階で大きな設計修正は致命傷だ。40年も前に小型航空機で経験したのと同じスキームを、そのままMSJで押し通すのは明らかに無理がある。MSJ開発の最終盤で起こった悲劇は、

「誰もが予想できた事態」

である。

 MSJは2015年に初飛行しているが、それから5年がたっても型式証明が取得できないまま、凍結が発表された。しかし、より大型のボーイング777や787の場合、初飛行から1~2年でFAAや欧州航空安全機関(EASA)の型式証明を取得している。

 ボーイング機は設計段階でFAAの審査を受けているから、設計の安全性は試作機が完成した時点で基本的に承認されており、飛行試験はそれを確認するプロセスにすぎないからである。

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