「好きで路駐してるわけじゃない」 荷待ちトラックを襲う住民クレームの嵐、敵は荷主か? 運送会社か? それとも国か?

キーワード :
, ,
トラック運転手の荷待ち路駐が社会問題となっている。その背景には物流クライシスを映し出す厳しい現実があった。

数時間に及ぶ荷待ち

駐車禁止の看板(画像:写真AC)
駐車禁止の看板(画像:写真AC)

 これは他の運転手からも聞いたが、工場や倉庫のほうから環境や周辺住民に配慮してアイドリング禁止を言われることもあるという。そういうところでは、30度を超える夏場でもエアコンは使えない。アイドリングをストップしても使える蓄冷式クーラーなどが備えられているトラックならまだいいが、そうでないトラックはひたすら耐えるか、この人のように簡易な扇風機でしのいだり、日陰をうまく探したりして荷待ちするしかない。

「まあ、そもそもガソリン代がもったいないから待機中は使うなって会社からも言われているんですけどね。だからどちらにせよ使えません」

 彼が勤務する運送業者は零細で、折からの原油高と荷主からの運賃値下げが重なり経営は厳しいという。また荷待ちは4時間に及ぶこともあるという。

「会社も仕事をもらっていますからね、強くは言えないんですよ。それもわかります。仕方がありません」

 発荷主、着荷主はもちろん工場や倉庫側にも事情はあるだろう。設備が古かったり、作業員が不足していたりすれば出入荷は遅れる。もちろんトラックは待機せざるを得ない。

 大都市で広大な敷地を確保するのは難しく、トラックすべてを敷地内に収容することができない。しかし近隣住民にすれば目に見えて法律違反を犯しているのは路肩や路地に待機せざるを得ないトラック運転手ということになる。待機場所もなく、警察からの注意で超過したにも関わらず、遅れは

「減給や罰金」

というひどい運送会社も普通にある。

過去の敗北から学べ

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 誰を罰せよと短絡的なことは書きたくないが、トラック運転手は駐車違反を強いられているだけであり、その責任は本来、発荷主および着荷主にある。ある意味、運送会社も被害者と言っていいだろう。

 当たり前のように物流コストを、その運送会社はもちろん、末端のトラック運転手に押しつけている。法定休憩の問題は本旨ではないため割愛したが、この問題もまた長時間の荷待ちと密接に絡んでいる。荷待ちを休憩時間とする(違法)運送会社もまた普通に存在する。それどころか結局、荷物が出なかった上に荷待ちの時間分の代金がもらえなかった事例もある。これは悪質な一部のケースだが、日本の物流はこの一例をもってしても最悪の環境にある。

 本来は十分な敷地を確保して、入出庫のシステムも生産だけでなく物流にも配慮した仕組みを作るのは荷主や工場、倉庫側の責任だ。荷待ちの路駐トラックばかりいじめても何の解決にもならない。

 またそうした仕組みを義務づけるのは国の責任だ。現状、荷待ち時間の記録が義務化され、荷主に対して指導する省令(2017年施行)が定められたが、現状を見る限り十分とはいえないだろう。やはりシステムの導入やインフラ整備による解決が必要で、バース(荷物の積み降ろし場所)の予約システムのさらなる普及と改善はもちろん、例えば工業団地には待機場所としてトラックステーションの設置を義務づけるなど、国としてできることはあるはずだ。まるで

「トラック運転手を悪者にしておけばいい」

とばかりの荷待ち摘発、彼らは他人から違反行為を強いられているにすぎない。

 物流は「国の血流」だ。その血流を軽視することもまた、この国の衰退の一因であることに気づけなければ、決して大げさではなく、かつて兵站を軽視して敗北したわが国の歴史を繰り返すことになる。

全てのコメントを見る