インドネシアでひそかに動く鉄道プロジェクト「スラウェシ島鉄道」 10月開業絶望的も、秘めたるポテンシャルはいかほどか

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インドネシアのジョコウィ政権下でひそかに動く、巨大鉄道プロジェクト「スラウェシ島鉄道」をご存じか。

中古車両導入の行方

スラウェシ鉄道の路線図(画像:高木聡)
スラウェシ鉄道の路線図(画像:高木聡)

 運輸省としても、このような結果を予測して、何も手を打っていなかったわけではない。2020年頃から、運輸省は標準軌の中古気動車導入を模索していた(運輸省が車両を用意し、KAIに無償か低額で譲渡するというスキームを検討していたものと推測される)。

 まず白羽の矢が立ったのが、オランダ鉄道のDM’90型である。もともと、ルーマニアに売却予定だったものが不履行に終わり、宙に浮いてしまっていた車両だ。しかし、中古車両売買でよくありがちな所有者不明の状態、訴訟沙汰になっていたようで、インドネシア譲渡への話は進まなかった。その後、2021年になってデンマーク国鉄のIC4型が具体名として挙がって来たが、折から車両トラブルの絶えない車両と言うことで、これも破談になった。

 驚くべきは、2021年9月にブディカルヤ・スマディ運輸大臣、ラフマット・ゴーベル国会副議長一行が来日したときのことだ。和泉洋人内閣総理大臣補佐官、赤羽一嘉国交大臣、福田康夫日イ友好協会会長他関係者と面会し、インフラ開発案件における引き続きの2国間協力を中心に話し合いが進められたが、その際に、スラウェシ鉄道向けの中古車両譲渡の可否も議題に上がったというのである。そもそも日本に標準軌の気動車も機関車もなく、物理的に不可能な話であり、事前にわかっていてしかるべきであるのだが、よほど切羽詰まっていたと言うことだろうか。その後も、有力な出物が無く、今日に至っている。

 ただ、それが直接影響しているのか定かではないが、2022年5月の商業大臣令にて中古資材輸入の規制が緩和された。海外からの投資を呼び込む一方、海外製品の排除、国産品の推奨というダブルスタンダードを取って来たジョコウィ政権であるが、さまざまなところでほころびが生じており、ご承知の通り、ジャカルタ首都圏への通勤電車も増備がストップしてしまっている。それが、この大臣令の変更で、鉄道会社が主体となった中古車両の導入が可能になった。

 特に収益が見込める貨物輸送に対しては、政府補助金は補填しないというのが前例であるため、KAIは、自前で機関車と貨車を用意する必要がある(旅客用気動車は運輸省が国産車両を購入し、用意する模様である)。幸い、世界的に需要がある標準軌機関車には、中古マーケットが存在する。アメリカ製機関車の整備には一日の長があるKAIであるから、おそらくGEやGM製の中古機関車を今後探すことになるのではないだろうか。今から新車を発注するのは予算的にもスケジュール的にも不可能に近い。

 もっとも、現状を見る限り2022年10月の開業は絶望的だ。早くて2023年だろう。ただ、いずれにしても2024年までには必ず開業させなければならない。2023年、2024年にはスラウェシ島に必ず鉄道が走りだす。果たしてそのとき、どんな鉄道風景が広がっているのだろうか。もし、本当に中古機関車を導入するとすれば、輸送距離が短く済む、韓国の中古となるか、それとも本国アメリカから調達するのかにも興味が尽きない。鉄道趣味的に見れば、ジョコウィも是々非々だ。

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