インドネシアでひそかに動く鉄道プロジェクト「スラウェシ島鉄道」 10月開業絶望的も、秘めたるポテンシャルはいかほどか
「スラウェシ島鉄道」とは何か

さて、前置きが長くなったが、本稿の本題はジャカルタ~バンドン高速鉄道ではない。日本国内では、政治スキャンダルのごとく、誇大に報じられる高速鉄道プロジェクトに隠れてしまっているが、ジョコウィ政権下で実はもうひとつの巨大鉄道プロジェクトが動いている。スラウェシ島鉄道、通称トランス・スラウェシ鉄道だ。
現在、インドネシアの鉄道はジャワ島とスマトラ島に合わせて約5800kmの路線を有するが、それ以外の島に鉄道は存在しない。つまり、トランス・スラウェシ鉄道はジャワ、スマトラ島外初の鉄道として建設が進んでおり、その一部区間が2022年10月に開業すると先般、運輸省が発表した。
スラウェシ島はカリマンタン島の東側に位置する東西南北に細長い、アルファベットの「K」のような形をした島だ。首都ジャカルタから、南部に位置するスラウェシ島最大の都市・マカッサルへは約1600km。さらに、マカッサルから島北部に位置する第二の都市・マナドへはさらに約1700kmも離れている。面積約17万4600平方キロメートル、世界第11位、インドネシアで第4位の広さを持つ島だ。
しかし、主要都市が鉄道や高速道路で結ばれ、人口密度が1000人を超える「全土が過密状態」とも言うべきジャワ島に対し、スラウェシ島の人口密度は100人にも満たない。主要産業はコーヒーやカカオ、米や果物を中心とした農業、輸出用のエビの養殖、マグロ、カツオ漁等を中心とした水産業といったところで、工業化が進むジャワ島に対して遅れを取っている。
また、スラウェシ島の経済発展を阻害する要因として、交通インフラの不足が指摘されている。現状、都市間を結ぶ高速道路は無く、上述のマカッサル~マナド間で約40時間を要する。それでも、道路の舗装、補修が進み、かつては2~3日かかると言われていたのを考えれば、だいぶ短縮されている。2011年に策定された「インドネシア経済開発加速・拡大マスタープラン(基本計画)」では、スラウェシ島経済回廊開発として港湾・空港・道路・鉄道の物流網強化が示されている。当時の報道によれば、総額2400兆ルピアを要する大規模開発である(『NAA ASIA』2011年12月22付)。
そのうちの鉄道計画だが、初出はやはり2011年に運輸省鉄道総局が策定した「国家鉄道マスタープラン(2011~2030)」だろう。この中で、スラウェシ島の鉄道は、2030年までに整備すべき路線として、南スラウェシのマカッサル~パレパレ間、そして北スラウェシのゴロンタロ~マナド間を挙げている。北から南までの全区間の接続も計画線として描かれているが、まずは少しでも需要がある区間から建設することになった。そのうち、前者のマカッサル~パレパレ間(約145km)が2014年に起工式が執り行われ、2015年から本格着工した。今回、そのうちの約71kmの区間が開業する。
同区間には国家予算およそ10兆ルピアが投じられたほか、工場、港湾への引き込み線などには、民間資金も活用されている。ちなみに、運輸省は既存線と接続しない新規路線は国際標準規格で建設することを決めており、スラウェシ鉄道は軌間1435mmの標準軌を採用している。運輸省によれば、設計最高速度は200km/hと言い、田畑や森林地帯を貫く立派な線路がお目見えしている。