無防備すぎる日本の「選挙カー」 今後は防弾ガラス必須か、安倍元首相銃撃を機に考える
政治家も「ひとりの人間」

近年は、水槽のような透明な箱の選挙カーもある。しかしこれはあくまでコロナ対策で、防犯面は二の次だろう。以前、トランプ前大統領の装甲車のようなキャデラックリムジンが話題となったが、日本も内閣総理大臣専用車のレクサスLS600hLや御料車のセンチュリーは防弾仕様に改造されている。
しかし現実は選挙ともなると全国を駆け巡り、大都市部からのどかな地方、小さな町や村まで移動することから
「動けば構わない」
と大臣クラスや首相経験者でも地元の普通の車で移動し、現地で用意された無防備な選挙カーに乗る。
というわけで、現在引退している元衆議院議員に話を聞いた。
「慣れてしまうと気になりませんが、最初は不安でした。選挙カーから誰だかわからない人に手を振って、選挙カーから降りて、大勢の知らない人に囲まれます。私がどういう人物かは別にして、政治に不満のある人や私の所属政党に不満な人もいるでしょう。人生がうまくいってなくて不満をぶつけたい人もいらっしゃいます。そんないろいろな人の前で政治家という立場で何百人、何千人の前でお話したりもするわけですから、駅前ロータリーの合同演説会など『あそこから撃たれたらおしまいだろうな』なんてふと思うこともありました」
政治家だから覚悟しろ――と言われるかもしれないが、政治家もひとりの人間だ。海外ではこうした演説方式や選挙活動は少なく、警備のしやすい会場方式での演説会か、徹底した街頭整理の上での握手会となる。
警備の難しい、走り回っての選挙カーによる演説や、まして大臣クラスを野ざらし状態で辻立ち演説などまずありえない。あったとしても警備員や警察、下手をすれば軍隊が守っていたりする。お国の事情にもよるが、日本の選挙カーが象徴する独特の選挙活動は無防備だ。先の元衆議院議員も語る。
「選挙カーはレンタルや自前で簡便に作るもので、予算の問題もありますから難しいのです。日本もせめて議員さんには防弾チョッキくらいは着せてもよろしいのではないでしょうか」
現状、その辺のワゴンカーを使った選挙カーによる選挙運動の文化を変えることは難しいし、防護対策を施すにも費用面で現実的ではないだろう。しかし元議員が言う通り、政治家が防弾チョッキや防じんチョッキくらい着用してもいいと考える。警備の人たちの努力にも限界がある。