なぜ「信号待ち」が歓迎されるのか? 事故を約7割減らす仕組みが“わずか5%”にとどまってきた根本理由

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全国約21万基の信号のうち歩車分離式は約1万基(約5%)。事故件数を最大4割、対人事故を約7割減らした実証効果がありながら導入は限定的だ。効率と安全のせめぎ合いの中で、交差点インフラは転換点を迎えている。

社会的損失を防ぐ交通弱者への投資

歩車分離信号は長期的なメリットがあるのか(画像:福岡県警察)
歩車分離信号は長期的なメリットがあるのか(画像:福岡県警察)

 警察当局が待ち時間の増加という不利益をのみ込んでまで整備を進めるのは、目先の効率よりも、長期的な社会利益を重く見ているからだ。とりわけ焦点となっているのは、高齢者や子どもといった交通弱者の命をいかに守るかという点にある。

 2024年のデータを見ると、交通事故で亡くなった65歳以上の高齢者は1513人にのぼり、全体の

「56.8%」

を占めている。しかも歩行中の死者のうち、道路を渡っている最中の事故が約7割という事実は、横断歩道の危うさを物語っている。車両と歩行者の時間を切り離すことは、事故を防ぐうえで極めて有効な手立てだ。これは個人の悲劇を減らすだけでなく、医療費や救急搬送、行政対応に費やされる膨大な公費の抑制にもつながる。

 もっとも、すべての交差点に一律に導入すればいいというわけではない。東京大学大学院が池袋周辺の15か所を対象に行った試算では、全地点への導入は費用が便益を上回るという結果が出ている。これは交通量が極端に多く、待ち時間の影響が無視できない都市部特有の事情といえる。同研究でも、事故が多発する場所に絞った重点的な整備を提言しており、現在の「事故多発地点や通学路を優先して整備を進める」という国の方針とも平仄が合っている。

 さらに一歩先を見据えれば、自動運転技術の普及も無視できない要素だ。自動運転システムにとって、クルマと歩行者が複雑に交差する場所の判断は負荷が高く、制御が難しくなる。あらかじめ行動する時間をわけておけば、機械にとっても周囲の状況を読み取りやすくなるだろう。

 これは、将来の移動システムを社会へ受け入れるための地盤を固める作業とも受け取れる。移動の効率を削ってでも命を優先する姿勢は、これからの社会インフラが目指すべきひとつの姿を示しているのかもしれない。

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