「お客様第一」の終焉? カスハラ主犯は「50代以上の男性」――小田急電鉄が全70駅にボディカメラ導入、その理由とは
カスハラ1513件、被害者の15%が深刻化――現場の限界が制度を動かした。小田急電鉄は全70駅にボディカメラを導入し、記録と抑止でサービス維持に踏み込む。技術で守る現場と、変わる「客と事業者」の関係を追う。
職員を守るための物理的装備

小田急電鉄が選んだボディカメラの性能を眺めると、現場を預かる人々を守り抜こうとする、会社の強い意志が伝わってくる。
採用された「LINKFLOW P3000」は、8時間にわたる連続録画ができ、防水防塵の規格はIP67、さらには米国国防総省の耐久基準である「MIL-STD-810G」まで満たしている。暗い場所での撮影やライト機能も備えており、深夜のホームやひどい雨のなかでも、何が起きたのかを克明に残せる仕様だ。
これだけの道具をすべての駅に揃えたことは、現場で働くひとりひとりに、物理的な盾を手渡したのに等しい。三重県では悪質な者の名を公表する踏み込んだ措置まで現れた。かつて航空業界で
「一切の苦情を受け付けない」
という方針が議論を呼んだこともあったが、いまや働く者の安全を最優先にする姿勢は、あらゆる産業で当たり前のものになりつつある。心身を削るような被害は、そのまま会社の損失や人手の流出につながり、社会の土台を支える仕組みそのものを危うくするからだ。
会社側には被害を防ぐための手立てを講じる義務がある。現場の安全を保ち、理不尽な要求には毅然と向き合う。そうした振る舞いは、いまや当然の務めとなった。同時に、乗る側と働く側が尊重し合うことが、確かな輸送サービスを続けていくための条件となるだろう。動かぬ記録を武器に、心ない振る舞いを退ける。そのための決断は、現場を支える人を守り、鉄道への信頼を保つために避けては通れない投資といえるはずだ。