「ICカードは作りません」 JR四国が売上13億円で選んだ“持たない経営”の帰結、固定費モデルを捨てた鉄道会社の異端戦略とは
スマホ前提の切符販売

スマえきは、スマートフォンの画面上にQRコードを表示させて利用するデジタルチケットアプリだ。乗車券や特急券に留まらず、通勤・通学定期券の購入にも対応しており、決済手段にはクレジットカードやPayPayが並ぶ。自動改札に読み取り機を備えた駅では端末をかざし、設備のない駅では係員に画面を提示して通り抜ける。
この運用の真髄は、多額のコストを要する専用インフラへの依存を断った点にあるだろう。保守点検時を除けば場所を選ばず発券できる利便性は、物理的なICカードが抱えていた制約を過去のものにしている。仮に端末を紛失しても、アカウント情報の引き継ぎによって利用を継続できる。ハードとしてのカードではなく、スマートフォンという既存の汎用デバイスを基盤に据えた仕組みは、地方鉄道の経営において極めて効率が良い。
かつてのJR東海の「TOICA」が、2026年3月のモバイル版導入まで物理カードに縛られ、オンラインチャージすら叶わなかった事実を思えば、JR四国のかじ取りは機能面で一歩先んじていたといえる。既存の「当たり前」を疑い、身軽なソフトウェアの実装を優先した判断が、今になって効いているのではないか。
実績は、利用者の支持を雄弁に物語る。2024年度の売上高は12億9300万円に達し、前年度から約2.5倍へと急膨張した。内訳を精査すると、定期以外の切符が4億4200万円(前年度比1.6倍)に対し、定期券は8億5100万円(同3.4倍)と爆発的な伸びを記録している(『朝日新聞』2025年5月31日付け)。
全体の運輸収入に占める割合は5%強をうかがう水準だ。生活基盤の一部である定期券の利用がこれほど急増した事実は、地域住民の日常において、スマートフォンによる鉄道利用がもはや特別なことではなく、不可欠な習慣として定着した証左である。