「もう商売になりません」 路線バス事業者の99.6%が赤字経営――それでもあきらめない、地域住民が守る“最後の足”の挑戦とは
事例:高山市高根地域の住民主体バス
岐阜県の北部、飛騨地方の中央に位置する高山市では、交通空白地の移動手段を確保するため、「たかね号」と呼ばれる有償運送サービスを実施している。これは、従来のバス事業者が高根地域から撤退を申し入れたことを受け、地域住民の手で運行を始めたものだ。
運行を担うのは「高根まちづくりの会」というまちづくり協議会である。協議会は、
「自分たちの地域は自分たちでつくる」
という方針のもと、多様な住民の参画と各種団体の協働で、地区の課題や特色に応じた活動を進めている。交通問題もその一環として位置付けられ、運転者も地域住民が担い、有償で依頼されている。プロのバスドライバーに比べ人件費が抑えられるため、住民の力を活用することは大きな効果を生んでいる。利用者は1乗車あたり100円を負担する。
筆者が現地で関係者に聞き取り調査を行ったところ、従来、路線バス事業者に運行委託していた2016(平成28)年度までの年間経費は約2500万円だった。これに対し、2017年度から始まったたかね号の市助成は年間約1200万円にとどまり、
「約1300万円の予算削減」
に成功している。地域住民が主体となることで、行政の補助金負担も大幅に軽減できることが確認された。
事例:世田谷区玉川地域のコミュニティーバス
東京でも路線バスの衰退は顕著で、高齢者を中心に
「病院に行けない」
「買い物に行けない」
「友人に会えない」
といった声が増えている。免許返納によって自由に外出できない人や、障がいで移動が困難な人も少なくない。
こうした状況を受け、市民グループ「おでかけサポーターズ」が誰でも利用できる小型コミュニティーバスを運行している。世田谷まちづくりファンドの助成を受け、毎週水曜日の午前中に玉川支所(等々力駅)から二子玉川駅まで、3往復の運行を行う。利用は無料である。
筆者が現地で試乗したところ、路線バス停や鉄道駅へのラストワンマイルの移動が難しい地域を効率よく回るルートになっており、高齢者や小さな子どもを持つ親の移動を支えていた。
運行を通じて関係者と利用者がお互いを知る機会が生まれ、地域での災害時支援や日常生活の情報交換にも役立っている。移動手段としての役割に加え、地域住民をつなぐコミュニティーの形成にも寄与しつつある。
事例:兵庫県宍粟地域の「思いやり号」
兵庫県の中西部に位置する宍粟(しそう)市では、路線バスの休止を受け、2008(平成20)年4月1日から「思いやり号」を代替交通手段として運行した(現在はバス再編により運行は終了)。運営は地域住民が主体となる委員会が担った。少子高齢化が進むなか、
「お互いに思いやりを持って、日常生活や社会生活を助け合う」
ことを理念として、市の公用車10人乗りワゴンを活用した。
思いやり号の運営委員会は、染河内地区の住民が中心となり、自治会や老人クラブ、婦人会、高校PTA役員で構成された。原則として1日3往復、毎日運行し、地元で募った有償ボランティアが交替で運転した。運賃は休止された路線バスに準じて設定され、運営経費や車両維持費は市が助成した。2008年の予算配分では、総額179万7000円のうち、県予算が12万円、運賃収入が40万3000円、市の一般財源が127万4000円となっていた。
現在は路線バスの再編にともない運行はされていないが、宍粟市内では、住民主体の運営という方法論が認知され、一定の成果があったことが確認できる。