なぜ世界はEVに熱狂し、失望したのか?――「補助金疲れ」でも止まらない、国家とメーカーの消耗戦

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EV普及という「環境保護」の建前の裏には、資源安保と産業再興を巡る各国の生々しい本音がある。ロシア産ニッケルが市場の1割を握る等の供給網リスクや補助金疲れで普及は停滞するが、米国の規格統一圧力など「非関税障壁」を巡る攻防は激化。政治経済の視点から、資源小国・日本が直面する電動化の真実を浮き彫りにする。

普及が頭打ちになった理由

EV(画像:Pexels)
EV(画像:Pexels)

 このように、世界のEV普及がすすめられた背景には、天然資源の問題や自国製造業への投資の活性化を図りたいという各国政権の本音があった。

 しかし、ここ数年はEVの伸びが世界的に鈍化している。航続距離の限界やバッテリーの劣化など技術的な問題、充電スタンドの不足などインフラの課題が主な理由とされている。主要国は補助金や税制上の優遇策など政策的な対応によりEVの普及に取り組んできたが、最近は米国も欧州も販売目標を引き下げるなど、後退の動きも見られる。

 なぜここ数年、世界のEV普及は落ち着いてしまったのだろうか――。

 ひとつは、EV普及においても天然資源の問題を抱え込むということがある。EVの電池に欠かせないニッケルは、ロシアが世界シェアの約1割を握っている。各国が多額の補助金を費やしEVの普及を進めたことにより、急速な価格高騰が起こっている。またその他電池に必要なレアアースは中国に依存している面もある。ロシアの安い天然ガスに依存してきたドイツは、高級車や多様な工業製品を中国に販売することで好調な経済を維持してきた。ところが、ロシアとの関係悪化が招いたエネルギー危機や、現地メーカーの部品不足といった状況が相まって、国産車の販売台数が減少し、反対に中国産自動車の輸入が増えている。

 このように、EV普及を進めても、中国、ロシアとの外交・経済の安全保障リスクを低減することはできなかったのである。

 また、EVは、ガソリン車に対して割高感があり、なおかつEVはガソリン車に比べ中古車の値下がりが大きい。これも、EV普及が伸び悩む要因だろう。当初、部品点数が少なく構造が単純なEVは、航続距離の問題が少ない市街地での活用が見込まれていた。だが現状は採算の観点から高級車として市場へ投入されている。そして低価格EVは、これまた中国の比亜迪(BYD)が覇権を握っているという状況だ。ガソリン車の産業が日米欧に比べ脆弱だった中国は、EVを商機と捉え、国家を挙げて普及に取り組んできたのである。

 その結果、どこまで行っても中国・ロシアとの外交・経済の安全保障リスクに直面してしまう現状に、欧米ともに政権が

「補助金疲れ」

を起こし、補助政策を縮小させた結果、世界のEV普及は進まなくなったのである。

 日本は、これに加えてトヨタ自動車が自社にノウハウがなく強みがないと感じたEV製造に後ろ向きな反応を示したことから、そもそもそこまで力を入れていないという状況があった。トヨタとともに経済産業省も「マルチパスウェイ」を主張し、EVに限らぬ多様な電動化を進めることにより、環境保護にも対応できると主張している。

 だが、トヨタが強いハイブリッド車(HV)においても、当然電池のレアアース問題は抱え込むこととなり、中国・ロシアとの外交・経済の安全保障リスクを逃れられていない。また、中国と距離が近いことから、BYDの低価格EV参入の影響は大きくなるとみられ、かじ取りが難しい状況である。

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