次なる「北極星」はどこか? 脱炭素と経済合理性の新・均衡点【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(5)

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EUは2025年末、「2035年エンジン車禁止」を撤回した。BEV一択政策はLCAで10万km走行が前提という現実に直面し、限界が露呈。技術中立と多様性を軸に、ポスト2035年の新ルール設計が始まる。

「Fit for 55」が招いた主導権の逆流

2025年12月25日発表。主要メーカーの電気自動車販売台数推移(画像:マークラインズ)
2025年12月25日発表。主要メーカーの電気自動車販売台数推移(画像:マークラインズ)

 EUが掲げた「Fit for 55」は、地球温暖化対策と成長戦略を一体で進める政策だ。環境を前面に掲げ、BEV一択で制度設計を進めてきた。しかし結果として、EU自身の成長には十分結びつかなかった。むしろ、自動車産業の主導権転換を狙う中国メーカーやテスラの成長を後押しする形となった。

 こうした経緯から、日本の強みであるHVを排除する狙いがあったのではないか、という見方が広がったのも不思議ではない。ただ、ここ数年で環境は大きく変わった。EUが単独でBEVを軸に世界市場を席巻する構図は、現実的ではなくなっている。

 であれば、これまで政治的な力学で後景に追いやられてきた技術の多様性を、改めて正面から評価すべき局面に入ったといえる。LCAに基づく客観的な指標を土台に、技術そのものの競争に立ち戻ることが、ポスト2035年に向けた望ましい姿だろう。

 全固体電池のような抜本的な技術革新が起きない限り、環境を理由にBEVだけを選び続ける戦略には限界がある。今後は、各国・各地域のエネルギー事情に即した自動車づくりが問われる段階に入った。画一的な正解が消え去った今、各地の現実に根ざした技術の多様性を模索し続ける真摯な姿勢。それこそが、混迷する時代の海を行く自動車産業が再び見据えるべき「北極星」である。

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