次なる「北極星」はどこか? 脱炭素と経済合理性の新・均衡点【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(5)

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EUは2025年末、「2035年エンジン車禁止」を撤回した。BEV一択政策はLCAで10万km走行が前提という現実に直面し、限界が露呈。技術中立と多様性を軸に、ポスト2035年の新ルール設計が始まる。

BEV一択政策に潜むLCAの盲点

「自動車による排出量のバウンダリに係る論点について(画像:環境省)
「自動車による排出量のバウンダリに係る論点について(画像:環境省)

 事実上BEV一択だった「2035年エンジン車禁止」の問題は、技術的中立の欠如だけではない。不都合な現実が十分に議論されてこなかった点にある。BEVは走行中にCO2を排出しない。しかし、電力を生み出す過程ではCO2が排出される。電源が100%再生可能エネルギーでない限り、排出源を別の場所に移しているにすぎない。

 加えて、バッテリー製造には大量の電力が必要だ。希少金属の採掘や精錬、加工も環境負荷が大きい。需要が増えれば、自然破壊につながる可能性もある。廃棄時にもCO2は排出される。本来は、走行時だけでなく、製造から廃棄までを含めた排出量で比較すべきだった。しかし政策は、

「BEV = カーボンニュートラル」

という単純な構図のまま進められてきた。現在は状況が変わりつつある。自動車メーカーは、新たな指標であるライフサイクルアセスメント(LCA)の開示を進めている。LCAは、車両製造、エネルギー製造、走行、廃棄までのCO2排出量を算定する手法だ。

 環境省の検討会資料では、走行のみの「Tank to Wheel」、エネルギー製造と走行を含む「Well to Wheel」、さらに車両製造・廃棄まで含めた「LCA」で排出量を比較している。Tank to WheelではBEVの排出量はゼロになる。一方、LCAで見るとBEVとガソリン車の差は大きく縮まる。車両製造・廃棄の段階では、BEVの排出量は

「ガソリン車の約2倍」

とされる。BEVがLCAでガソリン車を下回るには、製造段階で増えたCO2を走行によって相殺する必要がある。VWが行ったBEVとディーゼル車のLCA分析では、累積走行距離が

「10万km」

を超えて初めてBEVが有利になる。ガソリン車との比較でも、8万~10万km付近で逆転するとの試算がある。さらに、この距離は発電時の再生可能エネルギー比率によって前後する。

 つまり、BEVの環境優位性を成立させるには、少なくともバッテリー保証の目安である10万km程度は乗り続ける前提が必要となる。途中で廃棄すれば、CO2削減の観点では逆効果だ。LCAによってBEV優位の前提が揺らいだ今、BEVだけを特別扱いする時代は終わりつつある。BEV、PHV、HV、バイオ燃料、e-fuelエンジン、FCV、CO2回収技術を、国際基準のもとで公平に比較することが出発点となる。

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