次なる「北極星」はどこか? 脱炭素と経済合理性の新・均衡点【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(5)
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EUは2025年末、「2035年エンジン車禁止」を撤回した。BEV一択政策はLCAで10万km走行が前提という現実に直面し、限界が露呈。技術中立と多様性を軸に、ポスト2035年の新ルール設計が始まる。
技術的中立性を巡る独の異議

ドイツが「2035年エンジン車禁止」に反対してきた背景には、事実上BEV一択となり、
「技術的中立性」
が失われていた点がある。技術の選択肢が狭められていたことへの懸念だ。自動車分野で脱炭素を実現する手段は、BEVだけではない。プラグインハイブリッド車(PHV)やハイブリッド車(HV)といったハイブリッド技術がある。バイオ燃料やe-fuelを用いたエンジン、燃料電池車(FCV)も選択肢に含まれる。マツダが開発を進めるCO2回収技術もそのひとつだ。
もっとも、ハイブリッドを除けば、いずれの技術も本格的な商用化には時間を要する。将来、どの技術が主流になるかは見通せない。ビジネスの論理では、ひとつの技術で覇権を握ることが理想とされがちだ。しかし、それが最適解とは限らない。
2021年12月、トヨタのBEV戦略発表の場で、当時の豊田章男社長は、地域ごとにエネルギー事情が大きく異なる現実を指摘した。そのうえで、各国・各地域の状況や需要に応じた多様なカーボンニュートラルの選択肢を提供する考えを示している。実際、再生可能エネルギーで十分な電力を賄える国もあれば、日常生活に必要な電力すら不足する国もある。「2035年エンジン車禁止」を掲げたEU域内でも、国ごとに事情は大きく異なる。
バイオ燃料を輸出できる国がある一方で、再生可能エネルギーを活用したe-fuel製造に適した国も存在する。脱炭素を巡る条件は一様ではない。当面は、単一解に収れんさせるのではなく、技術の多様性を前提とした現実的な対応が求められる。脱炭素の現実主義が形づくる
「モザイク型の社会像」
こそ、いま想定すべき姿といえる。