沈みゆく「海事大国」日本――DX後進の危機! 業界団体「3500億円投資」は救済の決定打となるか?

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日本の海事産業は貿易の99.6%を担う一方で、DX遅れと人材不足に直面している。LNG燃料船は建造コストが最大30億円増加する中、1兆円規模の政府・民間投資がDXと環境対応の両立を後押しする。

レガシーシステムの足かせ

サプライチェーンのイメージ(画像:Pexels)
サプライチェーンのイメージ(画像:Pexels)

 海事産業のDXが進まない理由は、経営者の意識だけではなく、業界特有の構造的な課題が変革を阻んでいる点にある。

 海運ビジネスには船主、運航会社、港湾、荷主、造船会社など多くの関係者が関わる。この複雑な構造がDXの最大の障壁のひとつとなっている。業界全体の効率化には、すべての関係者が同じシステムを使う必要がある。しかし初期費用やメリットの分配を巡り、各社の利害が対立しやすい。また、各社が従来のレガシーシステム(過去の技術や仕組みで構築されているシステム)から脱却できない点も障害になっている。

 海事業界にとって最も切迫した問題は環境規制への対応である。バラスト水処理装置やNOx、SOxなどの規制が続くなか、国際海事機関(IMO)は国際海運からの温室効果ガス(GHG)削減目標として「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を掲げている。各社はこれら規制への対応に追われている。

 特に近年注目されているのが新燃料への転換である。従来の油燃料からCO2排出削減を目的に、LNGやメタノール、アンモニアなどの新燃料が登場している。しかし、新燃料への対応には多くのコストがかかる。

 新燃料用のタンク設置や燃料の積み込み・使用設備、安全性の確保などが必要となる。LNG燃料船は重油燃料船に比べ、建造コストが15~30%増加すると言われる。ケープサイズバルクキャリアの船価は約100億円であり、1隻あたり最大30億円の費用が積み重なる。さらに新燃料供給のインフラも整っておらず、港湾側でも多くのコストがかかる。

 このような状況では、多くの企業が「目の前の規制に対応するだけで手一杯」と考えている。DXへの投資は後回しにならざるを得ないのが現状である。

 海事産業のDX推進を阻む根本的な問題は、デジタル人材の不足である。経済産業省によると、日本全体でIT人材が不足しており、その不足数は2030年には79万人に達するとされる。特に、サイバーセキュリティ対策やAI技術など、新しいビジネスを担う人材の不足が深刻である。

 各社はIT人材の採用を進めているが、若手は働きやすい環境や最新技術に触れられるIT企業やスタートアップを選ぶ傾向が強い。船という特殊な業界では、求められる専門知識の幅が広い点も採用のハードルとなる。その結果、

「DXを進めたくても、プロジェクトを推進できる人材がいない」

という悪循環に陥る企業が少なくない。外部のコンサルタントやITベンダーに頼る手もあるが、莫大なコストがかかる上、社内にノウハウが蓄積されないという課題もある。

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