秘境駅「上毛高原」はなぜ40年経っても駅名を変えないのか? 地元住民1.7万人超が署名した請願と、「実在しない地名」の経済的価値

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1982年開業の上毛高原駅は、実在しない地名を冠した秘境駅として知られる。署名数1万7702人の駅名変更運動が起きた一方、近隣温泉地は衰退傾向にある。まちづくりや水上温泉再生の進展次第で、駅名の「既成事実化」が地域ブランド力を左右する。

仮称駅が生む観光拠点

開業から40年超、開発が進んでいない上毛高原駅前。(画像:菅原康晴)
開業から40年超、開発が進んでいない上毛高原駅前。(画像:菅原康晴)

 筆者(菅原康晴、フリーライター)は、「実在しない地名」が観光上マイナスになるという意見にやや懐疑的である。実際、仮称が観光面でプラスに働く例は少なくない。

 代表例として石川県の加賀温泉駅(加賀市)がある。1970(昭和45)年、国鉄は粟津、片山津、山代、山中の四つの温泉への玄関口として駅を開業した。駅名や位置は当時、さまざまな議論があり、妥協の産物といえる。

 周辺の四つの温泉は総称で加賀温泉郷と呼ばれることもあるが、加賀温泉という温泉は存在せず、駅前に温泉街特有の街並みもない。駅前からは各温泉行きの路線バスや送迎バスが頻繁に発着している。

 駅前の景観は温泉街を期待する人にはやや肩すかしだ。しかし、四つの温泉を1駅に集約したことで拠点性が高まり、結果的に観光面でプラスに働いたことは間違いない。2024年の北陸新幹線敦賀延伸時にも、新幹線駅は同名で設置され、駅名は変更されなかった。

「高原」という言葉は本来、自然の地形を指すが、多くの場合、爽やかでプラスの印象を与える。1961年、伊豆急行線の開通にともない開業した伊豆高原駅は、こうしたイメージを先取りした駅といえる。

「伊豆高原」という地名は実在しないが、駅は周辺の観光地や別荘地への玄関口として整備された。現在では沿線でも拠点駅のひとつとして機能している。ただし同駅は、鉄道事業者が国鉄やJRではなく東京の大手私鉄であることや、大規模な別荘地開発が事業利益に直結する特殊事情がある。そのため、「高原」を冠する実在しない地名でも、上毛高原駅とは区別されるべきである。

 とはいえ、高原を含む実在しない地名を事業主体が戦略的に活用した例であることは明らかだ。

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