ディーラーはなぜ「クルマより保険」を売りたがるのか? 「5台売っても意味ない」──顧客を縛る“見えない鎖”の正体とは

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クルマ1台の報酬は1万円、保険1件で数万円――。ディーラー営業の世界では、いまや保険が評価と収入を左右する主戦場だ。現場の実体験を通じて、その知られざる構造と営業の葛藤を描き出す。

保険料に揺れる現場のリアル

自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)
自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)

 クルマより単価は低いが、保険契約の獲得は決して簡単ではない。顧客の多くは、長年付き合いのある保険代理店を通じて契約している。なかには、団体保険などの割安なプランに入っているケースも少なくない。

 当時からネット型保険を利用している人も多く、年間で数万円安くなる商品もあった。こうした状況で「うちのディーラーで入り直してくれませんか」と提案するのは、ためらいを覚える場面も多かった。

 ディーラーでは大手損保の商品を扱い、メーカー系ならではの無料特典もある。しかし、純粋な保険料で比較すれば、ネット型には価格面で太刀打ちできない。筆者も何度も悩んだ。保険証券のコピーを預かり、見積もりを作って丁寧に説明しても「高いね」といわれ、断られる。契約が取れずに月末を迎えると、胃が締めつけられるような日々が続いた。クルマが売れなければ責められ、保険が取れなければ同じように責められる。あるときは、顧客から

「いい加減しつこいよ」

と怒鳴られたこともある。そんな場面では

「事故対応から修理までひとつの窓口で完結できます」
「顔の見える相手に任せた方が安心です」

と必死に説得した。理屈ではなく、もはや感情に訴えるしかなかった。その言葉が本心だったのか、ノルマのためだったのか、今となっては曖昧だ。正直にいえば、現在の筆者はネット型保険に加入している。同じ補償内容なら、少しでも安い方を選びたい。それが利用者としての本音である。

 現場を離れ、ファイナンシャル・プランナーとして活動するようになってから、当時の自分が何をしていたのかわからなくなるときがある。どこまでが顧客のためで、どこからが自分のためだったのか、その境界は今もはっきりしない。

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