ディーラーはなぜ「クルマより保険」を売りたがるのか? 「5台売っても意味ない」──顧客を縛る“見えない鎖”の正体とは
保険を売った方が歩合率が高い現実

ディーラー時代に驚いたのが、自動車保険の歩合の高さだった。筆者が勤務していた当時、たとえば200万円の新車を1台販売しても、営業マンに入るインセンティブは1万円。クルマの価格が100万円でも500万円でも、1台は1台。報酬の額は変わらなかった。一方で、自動車保険を新規契約してもらえれば、それだけで高額な報酬がつくことがあった。
とくに記憶に残っているのが営業2年目のある月だ。新車販売は2台。保険の新規契約は7件。クルマのインセンティブは合計2万円に過ぎなかったが、保険の報酬は10万円を超えていた。このとき、ふと思った。
「あれ、保険のほうが稼げるのではないか」
営業マンのなかには、保険を取るためにクルマを売っていると冗談めかしていう者もいた。実際、それくらい保険は営業にとって“うま味”のある商品だった。
保険会社と提携している以上、ディーラー本社が保険営業に注ぐ力は非常に大きい。筆者が勤務していたディーラーでも、
・月◯件の新規契約
・継続率〇〇%以上
といった具体的な数値目標が設定されていた。当然ながら、これらは営業マンの評価に直結する。
ある月、筆者は5台のクルマを販売した。週に1台ペースで売ったことになり、当時の若手としてはまずまずの実績だった。しかし、新規の保険契約はわずか1件。翌月の朝礼で、上司からこういわれた。
「5台売っても、保険が1件なら意味ないからな。もっと取らないと認められないぞ」
誇張でも何でもない。実際にいわれた言葉である。新人の頃には、販売実績に満足していた矢先、保険契約ゼロを理由に営業会議で厳しく指摘されたこともある。そうした場では「何台売ったか」よりも「何件取ったか」が重視される。保険の数字がすべてといっていいほどの空気がある。
このような環境では、どうにかして保険を取らなければというプレッシャーが常につきまとう。他社で保険加入している顧客にも、保険証券のコピー提出をお願いする場面が日常的だった。ときには、顧客の気持ちよりもノルマ達成を優先せざるを得ない状況に追い込まれることもあった。