郵政民営化から20年! 日本郵便のトナミHD「800億円買収」に見る物流危機! ユニバーサルサービスの行方はどうなるのか?

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日本郵便によるトナミHDの買収は、物流業界におけるM&Aの新たな転換点となるか。燃料費高騰やトラックドライバー不足が深刻化するなか、自己資本比率50%超の健全経営を維持してきたトナミHDが、日本郵便の傘下に入る意義とは何か。本稿では、買収の背景にある物流業界の構造変化や市場再編の流れを踏まえ、その影響を多角的に分析する。

非公開化を模索するなかでの買収

トナミホールディングスのウェブサイト(画像:トナミホールディングス)
トナミホールディングスのウェブサイト(画像:トナミホールディングス)

 近年、物流業界ではM&Aが活発化しており、

・ファンドによる買収(例:アルプス物流)
・事業会社による敵対的買収(例:C&Fロジスティクス)

など、さまざまな形態のM&Aが進められている。一方、開示資料を見る限り、今回のケースでは、トナミHD自身が非公開化を模索したことが買収の発端となったようだ。

 トナミ運輸といえば、オーナー経営色の強い企業という印象を持たれがちだが、実際には特定の支配株主が存在せず、株主構成は分散している。このため、厳しい物流環境のもとで大規模な経営改革を進めるような意思決定には広範な株主の同意が必要だが、なかなか容易ではない。開示資料を読み解くと、ざっくりといえばこのような問題意識から、非公開化が有利と判断されたのだと考えられる。

 なお、同社の資産構成を見る限り、自己資本比率の高さに留まらず全般に財務状態は良好であるのだが、買収発表前のトナミHDの時価総額は500億円台に留まっていた。物流業界全般の傾向ではあるものの、

「企業価値に対して株価が割安な評価」

であることも否定できない。筆者(久保田精一、物流コンサルタント)の推測にすぎないが、ファンドや同業他社から買収のターゲットとされることへの警戒感もあったのではないかと思う。

 このような状況のなか、トナミHDの経営陣が非公開化を検討するなかで、日本郵便が買収候補として手を挙げたというのが大まかな経緯である。トナミ側にとっては、ファンドなど経営への干渉が予想される相手よりも、ある程度経営のフリーハンドを与えるであろう日本郵便の方が望ましいパートナーだったはずである。

 一方、日本郵便にとっても、800億円という買収価格は魅力的であったと考えられる。現在の物流業界ではトラック不足が深刻な問題となっており、日本郵便にとっては輸送能力の確保という課題を一気に解決できる可能性がある。その点からも、日本郵便にとっては大きな意義を持つといえるだろう。

 このように考えると、両社の利害が一致したことで実現した、互恵的なM&Aだったと評価できるのではないか。

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