旅行業界が血眼ウォッチ! 経済効果「7700億円」を生み出す米超人気歌手とは
アメリカン航空の巧みなマーケティング

ところで、スーパーボウルといえば、テレビ放映のCM料が法外なことで有名だ。30秒CMで650万~700万ドル(約10億~10億8000万円)もする。しかし、50%に近い視聴率をたたき出す国民的イベントであり、ここ数年の視聴者数は、1億1000万人を超えている。日本人ほぼ全員が見ているようなものだ。
この視聴者数は、2024年のスーパーボウルでは1億2000万人を突破し、史上最高の視聴者数を記録している。特筆すべきは、女性の視聴者数が7%も上昇したことだ。この急増の正体は何か。そう、テイラー・スウィフトだ。
別に彼女がハーフタイムにパフォーマンスをしたわけでもない。観客として試合を観戦した。ただそれだけだ。それでも、今年のスーパーボウルにスウィフトが与えたインパクトは大きい。
「彼女が見にくるかもしれない」
それだけで米国はざわつくのだ。
スウィフトのスーパーボウル観戦に注目が集まったのは、彼女の熱愛報道に起因する。唐突に下世話な話だが、実はお相手が、スーパーボウルに出場するカンザスシティ・チーフスのトラビス・ケルセ選手だったのだ。たかが芸能人とスポーツ選手の熱愛と侮るなかれ。スウィフトとケルセの熱愛報道は経済を大きく動かすこととなった。
折しも、スーパーボウルの開催前日に東京でのツアーコンサートを行っていたスウィフト。彼女が翌日に、ラスベガスでの「彼氏」の試合を見ることが物理的にできるのかという、半ばどうでもよさそうなことが、「スウィフティ」と呼ばれる彼女のファンのみならず、米国の大企業各社のマーケティング担当者の関心を大きく引いたのだ。
鋭い反応を見せたのはアメリカン航空だ。航空会社がスーパーボウル開催に合わせ国内線を臨時増便するのは恒例だが、アメリカン航空の動きはまさに「スウィフト = 機敏」だった(英語でスウィフト「swift」は、迅速な・敏速な・頭の切れるという意味)。
カンザスシティとラスベガスを結ぶ増便のひとつに「AA1989」という便名をつけたのだ。この対応は、機知に富んでいる。「1989」は、スウィフトの生まれ年であり、彼女が自身のベストセラーアルバムに冠したアルバムタイトルだ。ファンにはグッとくる。
このアメリカン航空の動きは、「スウィフト = ケルセ動向」を注視するマスコミに取り上げられ、大体的なプレスリリースなどせずとも大きな話題を呼んだ。その宣伝効果は抜群で、見事なマーケティング戦略の結実となった。
スウィフティたちとスポンサー企業の期待に応え、スウィフトは、東京でのコンサート後、即座にプライベートジェットでラスベガスに入り、観客席にその姿を見せた。彼女が観戦する姿が試合中に何度もテレビカメラにとらえられたことはいうまでもない。
未来予知ができていたら――。スーパーボウルの広告枠を逃した企業各社は、そう悔やんだことだろう。観客席にスウィフトが登場しただけで、スーパーボウルの視聴者数は1000万人も増え、広告の費用対効果が跳ね上がったのだ。
スーパーボウルのCM権の契約締結は、スウィフトとケルセの熱愛報道が出る前のことであり、しかもケルセのチームがスーパーボウル進出を決める前のことだ。
「30秒700万ドル」
は、この神がかり的な熱愛の展開により、結果的に非常に安い買い物になったようだ。もし彼女が試合観戦することが前もってわかっていたら、CM料金はさらに跳ね上がっていたことだろう。