静岡バス横転事故で注目 恐怖の「フェード現象」とは何か? 坂道で発生、運転テクさえあれば安泰とは言えなかった!
さまざまなブレーキ方法

フェード現象は大型車のみならず、自動車全般で起こりえる。それを防ぐために使われているのが、エンジンブレーキである。これは、アクセルを操作してエンジンの回転数を利用する減速方法を指す。
アクセルを離すと、エンジンに燃料が送り込まれなくなり、おのずと車体は減速する。ギアが低いほど抵抗力が大きくなり、エンジンブレーキも強くなる。
また、大型車にはもうひとつの補助として排気ブレーキが備えられている。これは運転席にあるスイッチを作動させると、アクセルを戻したときに排気管の弁が閉じ、エンジンの回転数に抵抗を生じさせることで減速するのである。
弁を閉じることで排気部分の圧力が高まり、エンジンの回転を弱めるわけだ。さらに、プロペラシャフトの回転に負荷を与えて、車体を減速させる「リターダ」と呼ばれる補助ブレーキを搭載している車種もある。
このように、大型車ではフットブレーキの多用によるフェード現象を防ぐためさまざまな技術が搭載されているわけだが、効果を発揮するには技術の習熟が欠かせない。
小山町の事故では、事故を起こした運転手が入社したのは2021年7月。山道での研修は受けていたものの、事故を起こしたコースを走るのは初めてだったとされており、経験や技量が不足していたのではないかと指摘されている。
ただ、運転技術の未熟さが事故原因として指摘されると、
「技術さえあればフェード現象由来の事故は防げる」
と思いがちだ。しかし、同様の事故が繰り返されていることからも、各種のブレーキを使いこなしが容易ではないのがわかる。
高い減速技術を求めるバス会社も

技術の習熟のため、客を乗せて運行させるまでに高いハードルを設けているバス会社もある。
比叡山ドライブウェイでバスを運行する京阪バス(京都府京都市)では、入社から2年間、比叡山線以外での実務経験がある運転手のみが、比叡山ドライブウェイを運転できる。
この路線を担当する場合には、事前の教習でもギアはセカンドに入れたまま、フットブレーキをなるべく使わずに排気ブレーキとリターダの併用で減速する技術が求められる。ここまでハードルが高いのは、この道路で1960(昭和35)年に別のバス会社のバスがフェード現象を起こして同社のバスに衝突、多くの死傷者が出た経験もあるためだ。
求める技術の水準に差異はあるものの、全国のバス会社でも、運転手の技術向上に注意を払っていると思われる。