時速200kmのスポーツカー追突で夫婦死亡 首都高湾岸線の悲劇は本当に「危険運転致死」だったのか? あえて冷静に再考する
危険運転致死はまっとうな判断なのか

時速200kmで他の車6台を妨害したあげくに追突、ふたりの命を奪っても、この国では交通事故なので起訴されるまでの約2年を自由に過ごせるし、殺人罪にも問われない。
2020年8月、川崎市川崎区の首都高速湾岸線下り線でスポーツカーを暴走させて夫婦ふたりを死亡させた会社役員の男(52歳)が2022年12月、ようやく横浜地検に危険運転致死の罪で起訴された。
実に事件発生から起訴まで2年4か月、筆者(日野百草、ノンフィクション作家)は「時速200kmで衝突 相手死亡も、真っすぐ走れば「危険運転にあらず」は理不尽だ! 今こそ求められる司法の歩み寄り」(2022年12月25日配信)でも書いたが、危険運転致死はそれほどまでにハードルの高い、慎重に慎重を重ねなければならないのがこの国の司法の現状である。それでも検察が危険運転致死で起訴したことはまっとうな判断であるように思う。しかし、あえて考える。これは「殺人罪」(運転殺人)ではないか、と。
もちろん感情のみで書いているのではない。
実際に2018年に大阪府堺市の一般道でバイクに乗った大学生に追い抜かれたことに腹を立て、時速100kmで追突して大学生を「殺害」した警備員の男(40歳・事件当時)は殺人罪で起訴されている。
当初は危険運転致死だったが、殺人罪の適用が可能と判断しての「英断」で、大阪地裁堺支部、大阪高裁もこれを支持、ハイビームとクラクションであおり運転をしたあげくに「はい、終わり」と言ったことは「殺意」があると認定した。
男と弁護士は最高裁まで争うために上告したが2020年あえなく棄却、殺人罪による懲役16年の刑が確定した。まさしく「画期的」な判例となった。
決め手はドライブレコーダー、この男の犯行の一部始終が残っていた。一昔前ならこれは単なる「過失」と片付けられてしまったかもしれない。いや、現代でも担当検事によっては危険運転致死、下手をすれば過失運転致死もありえた話である。
結果的に裁判所が追認してくれただけで、それほどまでに自動車運転で「故意」を立証し、それを認定することは難しい。万が一にも無罪になったらと検察が及び腰になるのは一部の司法関係者の「世間ずれ」と法律の不備にも原因がある。