配達ドライバーにとって「AI」は天使か悪魔か 過剰なまでに進められる業務効率化、事故リスク生み出す可能性も
AIの判断は「画一的」

運行管理者(人間)が管理すれば、ドライバーの体調を対面で判断し、その日の労働量を調整できる。しかし、全面的にAIへ委ねれば、ドライバーが運転途中で体調を悪くしても、適切な措置が瞬時にとられるかどうか疑問だ。
また、AIに緊急時の判断をどのようにさせるのか。人間が判断しても難しいケースはもちろんあるが、少なくとも時間の猶予は設けられる。一方、AIは一定のアルゴリズムに従い、過去の経験に基づいた一定の判断を瞬時に行うだけだ。筆者(戸崎肇、経済学者)はこれを全面的に否定するわけではないが、瞬時の判断は画一的になりやすく、事故発生リスクが高まるのではないか。
実際、AIによる運行指示が安全運転に影響を及ぼしていることが、アマゾンの運送を請け負う企業のドライバーから報告されている。AIは無理にノルマを達成させようとするのだ。
11月13日には弁護士ドットコムニュースが「「アマゾン配達」AIの理不尽な指示で混乱、ドライバー「運転ミスで交通安全脅かされる」」という記事を配信し、その実情を伝えている。記事はドライバーの待遇改善を訴えるシンポジウムに関する内容で、アマゾンの宅配ドライバーだったという登壇者のひとりは、
「人間が常識の範囲内で判断すれば、安全に配達できるはずなのに、AIという制御できないシステムに指示されるためドライバーがやむなく運転を急ぐなどして、交通安全が脅かされるリスクが生まれていた」
と語っている。
AIに依存してはいけない
AIが目指すものは何か――それが示されない限り、AIに対する現場の不信感を払拭(ふっしょく)することはできない。また、交通・運輸業界を持続的に発展させるためには、
・現場の労働環境改善
・経営陣との信頼関係の回復/向上
をAIに依存すべきではない。
もちろん、産業革命時のラッダイト運動(機械の導入によって失業などの脅威にさらされた労働者の起こした機械破壊運動)のように、先端技術であるAIをやみくもに否定するわけではない。AIの活用で、これまで発想できなかったような業務改善のヒントを得られることもあるし、なにより労働者にとってプラスに機能することもあるに間違いない。
ただ、AIによる改善はそれ以前に、現場の実情を知り、その経験に基づいた視点を持つ人がいてこそ初めて可能となる。経営者とは異なる視点だ。AIはあくまでも補助的な手段にすぎないのである。
歴史を通して、先端技術への対応は常に大きな課題だった。科学技術の水準が高まれば高まるほど、その能力を過信しやすくなるのは仕方のないことかもしれない。しかし、今こそ科学の「万能性」を疑わなければならない。それが現在の交通・運輸業界において、切迫した要請として顕在化しているのだ。