運送業界の仕事はいまだに「FAX中心」 時代錯誤の価値観はなぜ令和の今でも続いているのか
運送業界ではいまだに仕事が「紙ベース」を中心に回っている。デジタル化ができないのはなぜか。
リモート化できなかった運送業界
コロナ禍では製造業、サービス業など多くの業界では在宅ワークが幅広く導入された。筆者(久保田精一、物流コンサルタント)が非常勤を勤めている大学でも全面的にリモート授業が導入されるなど、個人的にも働き方が大きく様変わりした印象を持つ。
一方、運送業界では緊急事態宣言下でも出勤を継続する企業がほとんどで(一部の大手を除く)、リモート化の動きは極めて低調だった。もちろん、ドライバーがリモートワークできないのは当然だが、一見リモート化できそうな管理職、事務職も出勤を継続していた企業が少なくなかった。
その最大の要因は、運送業界の仕事がいまだにFAXなど
「紙ベース」
を中心に回っていることだ。
運送業にとっては、「東京方面に何台」といった荷主からの運送依頼がなければ仕事が始まらないが、この連絡手段はいまだにFAXと電話が中心だ。この他のほそぼそとした連絡も、やはりFAXと電話中心である。
FAX連絡に限らず、運送業には紙ベースの処理がそこかしこに残っている。その一例が「運転日報」だ。運送業界の中核を占める中小企業では、運転日報も多くの場合「紙」を原本として作成されているのが実態である。このように「紙中心」であることが、運送業のリモート化を阻む要因のひとつだ。
もうひとつの要因は、法令上、「対面」での業務が必要であることだ。ドライバーは運行前に点呼、アルコールチェック等を受けなければならない。点呼自体は離れた場所で受けることもできるが、点呼する側の管理者は、原則として事務所に出勤することになっている。
この他にも挙げていけばキリがないが、運送業界ではペーパーレス化やリモート化を阻む構造的な問題があちらこちらに存在するのだ。