運送業界の仕事はいまだに「FAX中心」 時代錯誤の価値観はなぜ令和の今でも続いているのか
プリントした紙を「原本」として管理

以上で述べた荷主側の問題に加え、デジタル化を阻むもうひとつの要因は「規制」だ。
運送業は法令に従って、運転日報・点呼記録簿など、さまざまな帳票を整備することが必要だ。帳票自体は電子化も可能だが、実際には紙(プリントした紙)を原本として作成している企業が少なくない。
トラック会社の8~9割は運行記録にデジタコ(デジタルタコグラフ、デジタル式の運行記録計)を利用しているため、運行記録自体は電子的に記録されている。デジタコにはドライバーが操作するボタンがあり、「休憩」「待機」などのステータスをボタンで記録する。
この記録が運転日報のベースになるのだが、デジタコの情報は改ざん禁止が大原則であり、ボタンの押し間違えのような場合にデータの修正が難しい。そのため、デジタコの情報をそのまま利用するのでなく、プリントした紙を原本として、これに手書きで情報を付け加えるような処理が一般化している(言うまでもなく、筆者もデジタコの記録の重要性を否定するつもりはない)。
これは、点呼やアルコールチェックについても同様で、さまざまなデバイスが利用されているものの、最終的には紙ベースを原本として管理される場合が多い。
帳簿作成だけでは安全運行につながらない

これに関連して最近、筑波大学の市川政雄教授を代表者とする興味深い研究成果が発表されたので紹介したい(8月22日付け同大学発表)。
2000年代に入って以降、飲酒運転による悲惨な事故が頻発したことなどにより、飲酒運転の規制強化が進んだ。具体的には、道交法改正により飲酒運転およびひき逃げの罰則が強化された。また2011(平成23)年からは事業用トラックにアルコール検知器の使用も義務化されるに至った。
同研究では事故統計データを元に、これらの規制の影響を分析しているのだが、分析の結果から厳罰化の効果が確認できた一方、
「アルコール検知器の義務化」
による効果を確認することができなかったと言うのだ。これは運送業の規制のあり方について、重要な示唆を与えてくれる結果ではないか。
アルコール検知器を導入したとしても、悪意を持ったドライバーが検知の網をすり抜けるのは難しくない。従って機器だけで飲酒運転を防ぐことができないのは当然であり、機器に加えて、「絶対に飲酒運転を許さない」という厳しい罰則が必要であるというように、この研究成果を解釈することもできるのではないか。
これは他の規制についても同じことが言えるだろう。つまり、形式上、記録や帳簿をいくらそろえさせても、違法運転を無くすことは難しい。違法運行を許さないという、強い社会的な規制がなければならないということだ。
このように、「違法運行を減らすために何が必要か」という、本当に効果的な規制の枠組みを科学的に検証すれば、紙の帳簿類を大量に整備する必要もなくなるのではないだろうか。これは、運送業のデジタル化を進めることにもつながるはずだ。