南極を縦横無尽に走る雪上車 作っているのは、なんと地方の「鉄工所」だった!
南極のモビリティ事情
ほとんど氷で覆われている、道路が舗装されていない、鉄道もない――南極のモビリティ事情は、地球上のほかの多くの陸地とは大きく異なる。
例えば、日本の観測隊の人や荷物を運んでいるのは、トヨタ自動車(2022年上期・新車販売台数ランキング1位)や日産自動車(同2位)など大手メーカーの四輪自動車ではなく、新潟県にある“鉄工所”が製造した特別仕様車なのだ。
地面が露出する昭和基地周辺の夏
日本の南極観測の歴史は明治時代にルーツがあるが、本格的なスタートは終戦後の1956(昭和31)年で、第1次南極地域観測隊の隊員53人が派遣されている。
この隊は観測船(海上保安庁の砕氷船)の「宗谷」で南極に向かい、南極圏内の東オングル島に昭和基地を開設した。南極大陸の98%は氷に覆われているが、昭和基地があるエリアは大陸の内陸部に比べると温暖で、夏季になると氷が溶けて地面が露出する。
一方、昭和基地から約1000km離れた大陸の内陸部に、ドームふじ基地も稼働している。堺雅人主演の映画『南極料理人』(2009年)の舞台になった基地であり、標高3810mの地点にあるため超極寒の環境にある。
木村拓哉のドラマにも登場の移動手段とは
南極圏内での空路の移動手段としては、飛行機、ヘリコプターが使われる。ただし、いずれも気象条件に左右されがちであり、必ずしも万能の存在ではない。したがって、陸上での乗り物は不可欠となる。
陸上では、その昔は犬ぞりが使われていた。馬は寒冷な地域の環境に適さず、そもそも氷の上では車輪の使用が困難であるため、馬車は機能しなかった。その点、寒さに強く、持久力があり、人間に従順な犬がけん引するソリが大いに役立った。
第1次南極地域観測隊は、カラフト犬22頭を宗谷に乗せた。のちに高倉健主演の映画『南極物語』(1983年)や、木村拓哉主演のTBS系テレビドラマ『南極大陸』(2011年)で描かれたタロとジロは、そこに含まれていた犬だ。
その後、南極のモータリゼーションが進み、ゴムのタイヤではなく履帯(「無限軌道」「クローラー」ともいう。ちなみに「キャタピラー」は商標)を使ったスノーモービルや雪上車が南極観測における主要な足に。一方で、南極への動物の持ち込みが禁止されることで犬ぞりは姿を消した。