トヨタはなぜイギリスから「撤退する」と言ったのか? EV・HVを巡る深い理由とは
ヨーロッパにおけるEV化の潮流

2020年にイギリスは欧州連合(EU)から離脱し、イギリスは独自の政策を行うようになったが、自動車の環境政策についてはヨーロッパ同様にガソリン車禁止、EV促進の方向に動いている。
ヨーロッパの環境規制は世界で最も厳しいものとなっている。2022年7月14日にEUの執行機関である欧州委員会が新たな規制を発表した。それによると、2035年以降に発表することができる新車はEVや燃料電池自動車(FCV)のみにするというもので、HVやPHVの販売すらも禁止されることになる。イギリスの規制よりもさらに厳しいものを行うと表明した訳だ。
EUにおいて、環境政策は最重要政策のひとつと位置付けられており、世界の中でも厳しい規制が行われてきた。先ほど紹介したCOPなどでも、環境規制をリードする立場にある。
環境政策が重視されるのはヨーロッパだけでない。2021年に就任したバイデン大統領はグリーン・ニューディールを掲げており、アメリカでも環境政策は重要政策として位置付けられている。環境政策を重視する動きは今後も強くなっていくだろう。
グローバル企業の苦悩

今回のトヨタの警告に対して、環境シンクタンクなどは低い評価を与えている。しかし、グローバル企業にとっては、そうは言ってられない複雑な事情がある。
トヨタの統計によると、2021年にイギリスをはじめとするヨーロッパ市場の販売台数は103万7126台、これはアジア・北米・日本の次という順番になる。販売の主力はアジアや北米市場となる。しかし、ヨーロッパ市場も台数的にはそれなりの数なので無視することはできない。
しかし、ガソリン車を巡る規制強化の流れは今後続くだろう。ヨーロッパやイギリスだけでなく、アメリカのカリフォルニア州でも2035年までにガソリン車を禁止する方針とされている。日本でもガソリン車を禁止こそしていないが、燃費規制は年々強化されている。そのため、ガソリン車の規制強化は今後も続いていくだろう。
その一方で問題となるのが、規制のスピードが早いのではないかという問題だ。イギリス自動車工業会が2020年9月に発表した調査によると、ドライバーの44%が2035年までにEVを購入する準備ができていないと答えている。急速なEV化を求める地域機構や政府の方針に肝心の顧客側がついていけるのかという課題が残されている。
EV化を促進しようとしているイギリスでさえ、この状況なのだから、これからEV化を進めようとしているアジア諸国の対策はさらに遅れる可能性がある。
トヨタのようなグローバル企業は多くの地域に進出しているがゆえに各地域の状況に合わせていかなくてはならない。今回のトヨタの警告はそうしたグローバル企業の苦悩を示しているのかもしれない。