なぜ中小の自動車部品メーカーは「値上げ」を言い出せなかったのか? 取適法が変える交渉構造と残る力関係
2026年1月施行の取適法は、従来の「結果」ではなく価格交渉の「プロセス」を問い、自動車サプライチェーンの構造に挑む。だが、直後の調査では2.3%の企業が協議すら叶わぬ現実も浮き彫りとなった。将来の選定排除を恐れる下請けの盾となるか、それとも形骸化するか。生死を分かつのは現場の「記録」である。
前例を盾にした拒絶
鉄や電気代などのコストが上がっても、納品単価への反映を求める協議の場すら設けられず、
「他社からは相談がない」
「前例がない」
という返答で交渉が終わってしまう事例がある。発注側には価格改定の頻度を抑えたい事情がある。変動が一時的であれば、そのたびに単価を見直す事務コストの方が高くつくため、供給網全体の安定維持が優先されるからだろう。
しかし、その判断が積み重なると、分刻みのスケジュールで動く生産現場に対し、価格契約の見直しに半年から1年のタイムラグが生じる。自動車産業適正取引ガイドライン(2025年12月改訂)が整理する問題類型も、協議を拒否されたまま長期のタイムラグが生じる状況を想定している。
その間のコスト増加分は、すべて受注側の部品メーカーが飲み込む。製品は特定の車種専用であり、他社へ転売して損失を回収する手段がないため、発注側に悪意がなくてもコストは下流に溜まり続ける。これが、この産業に根づく仕組みの問題だ。
こうした話し合いの難しさは小さな取引にも現れる。使われるか不明な金型が何年も無償保管されるケースや、量産終了後の補給品単価が量産時の安価なまま据え置かれる事例だ。これらは部品メーカーの資産や工場スペースを圧迫して資本効率を悪化させており、金額は小さく見えても前提の曖昧な負担が古い商慣行として続いている。