高齢ドライバーの「免許返納」はなぜ進まないのか? 社会学者が地方で見た非情な現実とは
課題解決に向けた道筋

2021年11月、筆者は広田町で行われている路線バス乗車体験会に同行したが、運転免許を保有する高齢者らの参加も見られた。参加者に話を聞いてみると、
「自分の(車での)運転とは違って、安心して移動できる」(80歳代、男性)
「返納した時の予行演習」(80歳代、男性)
「将来を見越した訓練(として参加している)」(70歳代、男性)
という声も聞かれ、普段は自家用車で個別に移動している人々も、ほとんど初めて乗車した路線バス車内で楽しそうに会話している様子が見られた
もちろん、このような取り組みがすぐに高齢者の運転免許返納につながるわけではないが、ハンドルを握っているうちから公共交通など、返納後の移動手段を体験する機会は非常に重要であると考えられる。
また、高齢者を対象としたモビリティ・マネジメントは全国各地でも見られつつあるが、今回の事例のような
「コミュニティー・ベース」
での取り組みは、住民自らが課題を認識し、その解決方法を思考する機会にもなることが期待される。
とりわけ人口減少や高齢化の進む地方において、鉄道やバスなどの既存の公共交通をどのように活用していくのか、あるいはその維持が難しい場合に、自家用有償旅客運送等の補完的な手段をどのように創出していくかが論点となる。
逆にいえば、自家用車の代替手段整備に関する議論なしに運転免許の返納を促すことは、いわば
「網目のないネットに高齢者を突き落とす」
ようなものである。
「行動変容」を促すことも重要

現状では、運転免許返納を「する」か「しない」かの二者択一の議論となる傾向にある。しかし、地方では代替手段がないことで、日常生活のために運転せざるをえない高齢者がいるという現実を直視しなければならない。
一方で、特に75歳以上になると、交通事故のリスクが高まることも事実であり、自らの運転能力の衰えに対する認識や、移動手段の(緩やかな)転換も含めた「行動変容」を促していくことも重要である。
こうした課題解決に向けては、地方自治体のみならず、地域の交通事業者や住民組織など、多様なアクター(主体)の参画のもとで議論を進め、
「自家用車に依存しなくとも生活の質を維持していく」
ための現実的な方策を整理し、主体間の協働のもとで具現化していくことが求められる。