高齢ドライバーの「免許返納」はなぜ進まないのか? 社会学者が地方で見た非情な現実とは
運転免許保有者の高齢化

2022年5月13日に施行された改正道路交通法では、75歳以上で一定の違反歴のある人に対して、運転免許更新時に「運転技能検査」等の受検が義務付けられた。
近年、運転免許保有者の高齢化は顕著であり、内閣府の『令和2年交通安全白書』によれば、2019年時点で70歳以上の運転免許保有者は1195万人となっているが、これは1975(昭和50)年のおよそ
「90倍」
であり、運転免許保有者の14.5%を占めるという。
また警察庁によれば、運転免許の自主返納(申請取り消し)件数は、2015年から2020年のわずか5年間で、約1.9倍に急増している。
特に、2019年には返納者数が過去最多の60万人以上にのぼっており、この背景には、同年6月に起きた東池袋自動車暴走死傷事故の影響があるものと考えられる。
筆者(野村実、社会学者)が行ってきた地方部の調査でも、ある高齢女性はこのような事故報道を見て、
「(都市部で起きた事故とはいえども)明日はわが身」
だと話していた。ただ、運転免許返納後の代替手段がないため、結局は自身で気を付けながらハンドルを握るしかないのが現状である。
政府は、2019年以前から本格的に対策を講じている。例えば2016年11月には「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催され、同年10月に横浜市で発生した小学生男児の交通死亡事故をはじめ、「80歳以上の高齢運転者による死亡事故が相次いで発生」していることを背景とした高齢運転者対策の必要性が議論されてきた。
こうした議論を基盤として、2017年には国土交通省で「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」が開催され、自家用車に依存しなくとも生活の質を維持していくことが課題として位置付けられている。しかし、特に鉄道やバスなどの代替的な交通インフラが希薄な地方において、果たしてそれは現実的であるのだろうか。