テスラ「モデルY廉価版」は成功する? 価格は約607万円~、単なる「安物化」か「普及の突破口」か? 高級モデルとの比較で読み解く
筆者の意見

近年、リチウムイオン電池の価格低下と生産ノウハウの蓄積により、EVは高嶺の花から「生活の足」へと転換している。
・原材料価格の下落
・量産による製造能力の向上
・競争激化
・技術革新による効率性の向上
が進んでいる。
生産規模の拡大は価格を押し下げる大きな要因である。BNEFによると、リチウムイオン電池パックの平均価格は2013年に1kWhあたり732ドルであった。しかし2023年には139ドルまで低下している。約10年で約80%の減少だ。
テスラはギガファクトリーを活用し、セル一体型構造の4680セルや材料調達の垂直統合で、さらなるコスト圧縮を進めている。イーロン・マスクCEOのマスタープランはあまり知られていないかもしれないが、「高級 → 普及」の価格階層戦略を
「2006年」
の計画で明言している。スポーツカーを作り、その売上で手頃な価格のクルマを作り、さらにその売上でより手頃なクルマを作る。このサイクルによりEVを普及させる戦略であり、今回の廉価版モデルYはその第3段階に位置する。
中国のBYDは2万ドル台でEVを量産し、ASEAN諸国で急速にシェアを拡大している。バッテリーパックへのセル充填技術の改善や、DXを活用した効率的な製造プロセスもコスト低減に貢献している。さらにシリコンやリチウム金属アノード、固体電解質などの次世代技術も、今後の価格引き下げ要因になりうる。
中国のように研究開発から量産までの期間が短く、廉価なEVを投入する勢力を踏まえると、米国・欧州が高価格帯に留まるなかでテスラが
「中価格帯に進出する意義」
は大きい。世界のEV市場は変化が激しく、先手を打つことが競争力確保につながる。高級ブランドの信頼を維持しつつ普及層にレンジを広げることは、グローバルEV競争の防衛線である。今、普及拡大に着手しなければ市場で取り残されるリスクがある。
米国では民主党政権下でグリーン政策が推進され、EVシフトの動きが支えられてきた。インフレ抑制法(IRA法)により再生可能エネルギー投資やEV普及が支援されている。一方で共和党政権下では、EV政策にネガティブな側面がある。二大政党制では政策が反転するリスクが企業に存在する。補助金に頼らず売れるEVへの構造転換は不可欠であり、廉価版の投入は
「政策変動へのリスクヘッジ」
としても合理的である。