「小さな高級車は売れない」と言われた時代から四半世紀…トヨタ“常識を覆した1台”が世界で快進撃
プログレの失敗とLBXの成功

大きな違いは、車種の選び方そのものにある。プログレが登場した1990年代後半、日本の自動車市場はすでにセダンブームの終盤に差し掛かっていた。クラウンやマークIIなど伝統的なセダンは依然として根強い人気を誇ったが、ミニバンやRVが急速に伸び、ユーザーの嗜好は多様化していた。
そのなかでの小さな高級セダンというプログレの提案は、ややタイミングを逸していた。顧客が求めていたのは小さくて高級なセダンではなく、より自由で使いやすいクルマだったのである。
一方、LBXが登場した2020年代初頭は、SUV(クロスオーバー)が市場の主役となる時代である。あらゆるセグメントでSUVが支持を集め、特に欧州の都市部ではコンパクトSUVのシェアが急速に拡大している。小さくて高級なSUVは、まさに今の市場が求める中心的な提案だった。形式そのものが時代と噛み合っていた点で、プログレとは大きく異なる。
クルマに対する価値観も、この20年で大きく変化した。1990年代の日本では「高級車 = 大きくて立派」という意識が根強く、サイズが小さいと格下と見なされる傾向があった。プログレが
「セルシオ級の装備をコンパクトに詰めた」
と訴えても、多くの人には響かなかったのである。
現代は異なる。ダウンサイジングやサステナビリティの意識が広まり、必要十分なサイズで上質なモノを選ぶことがスマートな選択とされるようになった。高級時計でもコンパクトサイズが人気を集め、住宅でも小さくても快適な空間が支持される。自動車も例外ではない。
LBXが受け入れられた背景には、こうした時代の空気がある。小さくても本物の高級車として完成度が高ければ、むしろ好まれる。価値観の変化こそが、プログレの時代との最大の違いである。
市場の広さという点でも、プログレとLBXには決定的な差がある。プログレは日本専売モデルとして開発されたため、市場規模が限られていた。高級車セグメントのなかでもさらにニッチな小さな高級セダンに的を絞った結果、販売ボリュームにはどうしても天井があったのである。
これに対し、LBXは最初からグローバル市場を視野に入れて設計された戦略車である。欧州、とりわけBセグメントSUVが主力のイタリア、スペイン、フランスを主戦場と想定している。実際、2025年上半期には欧州でLBX1万4757台を販売し、計画を大幅に上回った。
加えて、LBXはレクサスというブランド力を最大限に活用している点も重要である。プログレはトヨタブランド内の上質モデルという位置付けだったが、LBXはプレミアムブランドとしてのレクサスから登場する。小型車であってもブランド価値が担保されるため、「サイズが小さい = 格が低い」という印象を抱かせにくいのである。