現役タクシー運転手が目撃した「無念の死」 同僚たちが背負う「過重労働」の宿命とは
住宅地に止まったまま動かないタクシー

眼鏡をかけた山田さんは、いつも片手にパンを持ち、それをかじりながら営業していた。朝出勤して深夜に帰庫するまで、車は止まるのはわずかな燃料補給タイムとトイレ休憩のみ。
走りっぱなしなので、タコメーターを見るときれいなヒマワリのようになっていて、筆者は心配して「あのう、そんなに走って疲れないかい?」と聞いたことがある。
「休みの日は寝てばかりいるから大丈夫」と答えるし、そうなのかと思っていた。
ある日、営業エリアの住宅の横に、彼の車が止まったままで、何度そこを通っても動く気配がない。筆者は住宅の裏かどこかで山田さんは用足しでもしているのかと思った。それにしても半日以上も、空が薄暗くなっても動いていない。
「どうしよう」。とうとう怖くなって、車から降りて様子を見に行くことにした。そこで腰を抜かすほど驚く。山田さんは軒下で前のめりになった状態でグッタリしていた。筆者は大慌てて救急車を呼ぶしかできなかった。
「言わんこっちゃない。お金も欲しいけど倒れてしまったら終わりじゃない。あれほどきちんと休みを取れと言ったのに」
脚をブルブル震えながら、サイレンを鳴らす車を見送った。
山田さんはそのまま帰らぬ人になった。急性心不全。婚約者までいた山田さん。筆者にとっても忘れられない“過労死”の現場だった。この1件が労災認定されたかどうかは知る当てもなかったが、いずれにしても死んでしまったら終わりだ。
今は、このような無茶な働き方はさすがにできない。
タクシーという職業をやっていると、さまざまな人間模様に出合う。乗客も同僚もしかり。人間、真面目に頑張っていてもどこに落とし穴が待っているか分からない。体調管理はまずは自身の心掛けが必要になる。とにかく用心して健康を大切にしかなくては。
※記事中に登場するエピソードは、プライバシーに配慮し一部編集、加工しています。