「天井を走れる」EV誕生? アクション映画が現実に?──F1超えのダウンフォース制御が拓く未来の走行革命とは
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ファンカー技術の集大成

マクマートリー・スピアリングは、天井走行を実現するために車体を路面(あるいは天井)に強く押しつけている。ただし、それは空力によるダウンフォースではない。スピアリングが発生させているのは
「車体を地面に吸い付ける力」
だ。この車両が注目されたのは、天井走行がきっかけではない。2022年の登場時に話題となったのは、圧倒的な走行性能であった。たとえば、英国グッドウッド・フェスティバルのヒルクライムでは歴代記録を大幅に更新。さらに、一部のサーキットではF1マシンを上回るタイムを叩き出している。
この性能を支えているのが「ダウンフォース・オン・デマンド」と呼ばれる走行システムだ。車体に搭載されたファンが車体下の空気を吸い出し、下部の気圧を低下させる。これによって車体は路面に吸着するように押しつけられ、強いダウンフォースを得る。
この仕組みは、かつて「ファンカー」としていくつかのレーシングカーに搭載された実績がある。1960~1970年代には、Can-Amシリーズのシャパラル2JやF1のブラバム・BT46が同様の機構を採用し、圧倒的なパフォーマンスを発揮した。しかし、性能が突出しすぎたため、規則によって使用が制限され、レース界では短命に終わった。
スピアリングはこの技術をバッテリー電気自動車(BEV)として現代に復活させた。搭載するファンシステムが生み出すダウンフォースは最大2000kgに達する。車重1000kg未満の軽量ボディに対しては十分すぎる力であり、逆さまでも落下しない理屈が成り立つ。
加えて、同システムは車速に依存しない。静止状態でもダウンフォースを発生できるため、今回の天井走行デモンストレーションにも有効だった。
さらに、BEVであることも天井走行成功の要因である。電動モーターや電子制御システムは、重力方向が反転しても基本的に影響を受けない。一方、内燃機関車の場合、エンジン内部の構造上、逆さ走行は機械的破損を招く可能性が高い。F1マシンによる天井走行が実現しなかった背景には、この点もある。スピアリングはEV化によってこの物理的ハードルをも克服した。