駅で突然、殴られる！ 「ぶつかりおじさん」増殖のワケ──解決策はある？ すれ違いざまの暴力を生む構造的リスクとは

“暴力”に発展する理由

　このようなトラブルの背景には、現代都市が抱える無意識のストレス環境がある。通勤ラッシュ時、駅構内には数万人が動線を秒単位で共有している。そこは強制的な密接空間だ。個人のパーソナルスペースは奪われ、他者が潜在的な障害物となる。他人の動きが、自分のスピードや快適さを妨げるものとして映る。

　その結果、些細な接触が挑発や攻撃と認識されやすくなる。特に精神的な余裕がない人にとっては、こうした摩擦が爆発の引き金になる。都市空間が人間に仕掛ける負荷テストのような状況だ。

　この状況で特に問題となるのが、立場の弱い女性への暴力だ。身体的に力の差がある女性が、男性の無意識的なストレスや衝動の標的になりやすいことは見過ごされている。強い圧力を感じる都市空間のなかで、加害者には自己を誇示したい、支配したいという欲求が潜んでいることがある。特に精神的な余裕がない男性は、自らの不安やフラストレーションを他者に転嫁しやすい。そのターゲットとして、力関係で劣位にある女性が選ばれやすい。

　こうした暴力行動の背景には、男性の深層心理における「優越感」の欲求が絡んでいるだろう。自分より弱い立場にいる相手に力を振るうことで、自己肯定感を高めようとする心理が働く。女性に暴力を振るうことで、無意識に自分を強い存在だと認識し、精神的なバランスを取ろうとする。こうした心理は、都市のストレスフルな環境下でさらに顕著に表れることがある。

　加害者は暴発の瞬間にすばやく言い訳を用意する。「マナーを守らなかった」「道をふさいでいた」などと、自らの行為を正当化する。この自己弁護は、暴力を振るうことで感じた一時的な優越感を持続させるための手段となる。その結果、暴力が処罰として正当化され、被害者である女性は再び無力感に苛まれることになる。

泣き寝入りを生む管理空白

　こうした事件が繰り返される背景には、もうひとつ深刻な問題がある。それが泣き寝入りの構造だ。

　暴力を受けても、すぐに警察に届け出るのは難しい。駅という公共空間では、加害者が人混みに紛れて逃げやすく、被害者も混乱のなかで相手の顔や服装を正確に覚えられない。さらに「自分にも非があったのでは」と考え、通報をためらってしまう。

　駅構内は鉄道会社の管理下にあるが、駅員の役割は鉄道運行の補助に限られる。治安維持の責任は負っていない。その結果、この管理の空白地帯では、暴力が見逃されやすい現実がある。