駅で突然、殴られる! 「ぶつかりおじさん」増殖のワケ──解決策はある? すれ違いざまの暴力を生む構造的リスクとは
都市部の駅構内で暴力事件が頻発している背景には、混雑やストレスが引き起こす社会的・空間的な脆弱性がある。日々何十万人が行き交う中、偶発的な接触が暴力へと変わる現実を前に、現実的な対策が急務となっている。駅の設計、監視体制、そして通報システムの改善が、安全な通勤環境を作る鍵となる。
“ぶつかり事件”の共通点にあるもの

東京・田町駅、品川駅、新宿駅。通勤時間帯の主要ターミナルで、暴行事件が相次いでいる。共通しているのは、「混雑」「逆走」「接触」「暴力」といったキーワードだ。
被害者の多くは、いわば“正しく歩いていた側”にあたる。駅構内の動線に沿って歩いていたところ、逆走してきた人物にぶつかられ、理不尽ないいがかりとともに暴力を受ける。なかには、通り過ぎたあとに追いかけられ、背後から殴られるケースもある。2024年10月には
「ぶつかりおじさんが追いかけてきて後頭部を殴られました」
というSNS投稿が注目を浴びた。こうした事例は、偶発的なトラブルとはいい切れない。加害者の多くは、混雑や接触を口実に暴力へと至るスイッチを内に抱えている。その引き金が、都市の駅構内という極限の空間で引かれているのだ。
都市の鉄道駅は、戦後の高度成長期を通じて拡張されてきた。しかし、現在も人の歩行を最適化する構造には至っていない。
例えば田町駅では、再開発にともなう改修工事によってエスカレーターが一基撤去された。その影響で、乗降者の動線が一方向に集中した。現場にはポールや誘導員が配置されているが、それだけで急増する通勤者の流れを制御するのは困難だ。
日本の鉄道駅は、基本的に輸送力の最大化を前提に設計されてきた。一方で、人と人との摩擦を最小化する視点は十分に取り入れられてこなかった。その結果、ピーク時には人流が逆流し、接触が頻発する状態が日常となっている。
このような空間的課題は、「マナーを守れ」という呼びかけだけでは解決しない。人の流れそのものをどう設計し直すかという、本質的な問いに直面している。