「すべてを捨ててく Airplane」 中森明菜「北ウイング」は、なぜ40年以上も愛され続けるのか? 日本社会を変えた「移動」と「時間」のメタファーを読み解く

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1984年にリリースされた中森明菜の「北ウイング」は、単なる恋愛ソングにとどまらず、移動を通じて恋愛のダイナミズムを表現した作品だ。飛行機という交通手段を媒介に、空間と時間が交差し、過去との決別や新たな未来への飛翔が描かれる。移動という視点で捉えると、恋愛の不確実性や心情の揺れが巧みに表現されている。

1983年という時代の空気

成田空港の第1ターミナル(画像:写真AC)
成田空港の第1ターミナル(画像:写真AC)

 前年の1983(昭和58)年、日本の社会は大きな変革期にあった。バブル経済の兆しが見え始め、物質的豊かさから個人のライフスタイルの多様化へと価値観が移行しつつあった。この時期、ファッションや音楽では都会的で洗練されたイメージが求められた。

 遡って1972年、日本航空は国際線と国内幹線を運行するようになった。そして、1983年には国際線定期輸送実績で世界第1位となり、国際旅行は特権的なものからより身近な選択肢へと変化していった。成田空港は開港(1978年5月)から5年が経ち、国際線のハブとしての存在感を高めていたが、同時に空港反対運動も続き、移動が単なる便利さだけではなく、政治的・社会的な問題と結びつく時代でもあった。

 さらに、1983年には通信技術の進化が始まった。遠距離恋愛や出張による家族との離別といった「物理的な距離」の概念が変わりつつあり、「北ウイング」に描かれる恋愛の距離感にもこの時代の移動と通信の変化が反映されている。

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