航空自衛隊のT-7後継機取得 「官製談合」疑惑が再燃するなか、透明な入札は実現できるのか?

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航空自衛隊のT-7後継機入札では、官製談合の疑念や不透明な決定プロセスが再び問題視されている。整備費用は見積もりの倍に達し、国際的な信頼性も低下している。今後は透明性を確保することが急務だ。

納税者を裏切る空幕の要求

KC-46A(画像:防衛省)
KC-46A(画像:防衛省)

 実際、米空軍もトラブルに愛想をつかし、2008年にKC-135の後継機としてボーイングKC-767を採用せず、A330MRTTの採用を決めた。ただし、ボーイングから異議申し立てがあったため、政治的にKC-46Aが2011年に採用される経緯がある。これを知りながらも、空幕は米空軍と同じ機体を欲しがった。KC-46Aを採用すれば米軍との相互互換が確保でき、767のコンポーネントには日本のメーカーも使われているため、日本企業にも仕事が入る。しかし、それ以上のデメリットもあったのではないだろうか。

 KC-46Aには現在、米空軍が「カテゴリー1」と位置づける重大な欠陥が七つもあり、最悪の場合には死傷事故や航空機の損失・損傷を引き起こす可能性がある。米空軍は現在、運用手順の見直しや給油できる機体の制限を行っており、そのうちの3件は解決に近づいていると説明している。しかし、すべての問題が解消するかどうかは不明だ。

 KC-46Aの問題は単なる技術的なものではなく、メーカーの能力が低下していることに起因している。これはボーイングの経営体制に問題がある。経営陣が“強欲資本主義”の権化であり、株価と四半期ごとの配当を優先するあまり、研究開発や生産現場をおろそかにし、熟練社員の人員整理を行った。その結果、開発能力が低下している。米軍向けの装備の開発費高騰や長期化は、この点が大きな原因だ。

 また、現場の品質管理も低下している。737MAXの事故多発も同じ根がある。さらに、内部告発を行った社員が不審な自殺を遂げるなど、問題が続いている。今後、同社で開発体制や品質が急速に向上するのは難しいだろう。加えて、現在は16年ぶりのストライキも発生しており、旅客機の販売不信も相まって、同社の信頼回復や財政は極めて厳しい状況になる可能性がある。最悪の場合、ボーイング社が倒産するリスクもある。

 調達計画が始まる前からKC-46Aのトラブルは頻発していた。これだけの問題があるにもかかわらず、空幕は

「米空軍と同じだから」

として、2025年度の概算要求でKC-46Aを4機、2068億円で要求している。リスクを真剣に考慮して調達計画を立てたとは思えない。ほかにフライングブームを搭載した空中給油機の候補はA330MRTTしかなかった。しかし、救難ヘリの不透明な採用によってエアバスの信頼を失ったため、事実上候補はKC-46Aだけになってしまった。

 一方、エアバスのA330MRTTは、欧州はもちろんオーストラリアや韓国など多くの国で採用されている。KC-46Aのトラブルが解決しないままだと、空自のKC-46Aの稼働率は大幅に低下し、戦力も大きくダウンするだろう。問題の解決の見通しが立たない装備を2025年度も要求するのは、自ら空自を弱体化させる行為であり、

「納税者への裏切り」

でもある。もし米空軍がKC-46Aに見切りをつけてA330MRTTを採用することになれば、空自は道化のような存在になるだろう。

 今回の初等練習機の商戦では、国内に有力な候補がないため、外国製になる可能性が高い。2024年7月1日には提案要求書の案に対する意見募集に関する説明会が実施されたが、空自の入札がほぼ官製談合であることは広く知られている。果たして、どの程度真剣に取り組んでくれる海外メーカーがいるのだろうか。また、海自の次期練習機・連絡機についても、8月に情報提供企業が募集されたが、同様の懸念がある。

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