航空自衛隊のT-7後継機取得 「官製談合」疑惑が再燃するなか、透明な入札は実現できるのか?

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航空自衛隊のT-7後継機入札では、官製談合の疑念や不透明な決定プロセスが再び問題視されている。整備費用は見積もりの倍に達し、国際的な信頼性も低下している。今後は透明性を確保することが急務だ。

不正入札の構図

石井紘基の著書『日本が自滅する日 「官制経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』(PHP研究所、2002年)。第2章「経済むしばむ“官企業”」の第4節「利権に利用される公益法人」より(画像:Merkmal編集部)
石井紘基の著書『日本が自滅する日 「官制経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』(PHP研究所、2002年)。第2章「経済むしばむ“官企業”」の第4節「利権に利用される公益法人」より(画像:Merkmal編集部)

 2000(平成12)年に防衛庁と富士重工の間で初等練習機の調達契約が結ばれた。この案件は疑惑が多く、総合評価方式が防衛庁で初めて導入されたもので、新しい初等練習機49機のうち2機分の入札が行われた。総合評価方式は、調達する航空機のLCCを含むトータルな性能とコストを評価して決定するものだ。

 しかし、契約は最初の2機分だけの入札で、残りの47機分は2001年度以降、毎年随意契約で調達されることになっていた。これは2機分でズルをすれば、その後の調達はズルズルと可能となる方式だった。例えば2機分を1円で入札すれば後の機体は何倍の値段を要求してもいいということだ。

 防衛庁が行った入札方法も疑惑を呼ぶものだった。最初の2機分は密封(通常の入札で箱に入れ封印すること)されたが、残りの47機分とそのLCC価格は封印せずにファイルで受領し、航空自衛隊に運ばれた。

 ピラタス社の価格が安かったにもかかわらず、高価格の富士重工が落札した。防衛庁の説明によれば、3機目以降の機体とLCCは富士重工の方が安く、全体として富士重工の方が安かったという。しかし、決定的な数字は密封されておらず、いつでも差し替えが可能な状態にあった。実際に開札前に数字が差し替えられたことを防衛庁も認めている。このことから、これは防衛省と空幕が組織ぐるみで行った官製談合の可能性が非常に高いといえる。さらに、この件についてスイス政府は不透明性があまりにもひどいとして、日本政府に抗議を行った。

 石井紘基氏は自著『日本が自滅する日 「官制経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』(PHP研究所、2002年)で、次のように述べている。

「私は富士重工との癒着によって不正入札が行われたものと確信する。それを裏付ける内部の証言もある。ちなみに、防衛庁・自衛隊から富士重工への天下り・再就職者は現在四六名であり、さらに、前述の機体整備を下請けしている富士重工の子会社である富士航空整備(株)への再就職者数は一二八名にのぼるのである。私の求めに応じて会計検査院も平成一三年一一月末に検査を完了、ほぼ私の主張通り、数々の不正を指摘した」

 会計検査院は、T-7のLCCが安いという主張が虚偽であることを示している。2012年度、会計検査院は空自が導入した初等練習機T-7の整備費用を、2003年度からの17年間で約21億8300万円と見積もっていたが、実際には導入から8年間で約18億2500万円に達しており、全体の約8割に達していたとして改善を求めた。

 この報告書によれば、IRAN(Inspection and Repairing As Necessary:航空機定期修理)費用は想定よりも安くなっているものの、他の費用は当初の見積もりよりも大幅に増加している。特に、富士重工の子会社に発注した整備委託費用が約2倍になっている(会計検査院法第30条の2に基づく報告書)。報告書は、

「整備作業は全体の約46%であって、過半の整備作業は見積もりの対象とされていないものであった」

と述べている。これにより、空自が意図的にIRAN以外の費用を見積もりの対象から外していた可能性が疑われる。つまり、富士重工案の採用を前提とした官製談合が疑われる。状況証拠から見れば、空幕はほぼ“真っ黒なグレー”といえるだろう。

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