管制官は「ステルス機」をどうやって見つけるのか? 米国「F-35B」機体行方不明トラブルから考える
悪天候・トランスポンダの不作動という要因
レーダーから発射された電波が機体に当たって反射し、その反射波(エコー)で機体の位置を知るのが一般的に認識されているレーダーの仕組みだが、これを1次レーダーという。この1次レーダーに機体が映るようにするのが、先に述べたレーダーリフレクターの役目である。
しかし航空管制レーダーが持つ機能は、この1次レーダーだけではない。管制レーダーが質問電波を発射し、航空機側が応答信号を送信するシステムがあり、これを2次レーダーという。この2次レーダーシステムは、
民間航空:トランスポンダ
軍用航空:敵味方識別装置
と呼ばれている。
機体の側は事前に与えられたコード番号をトランスポンダに設定し、管制機関は返ってくるコードと位置情報によって、どの機体がどこにいるかをレーダー画面上で把握できる。緊急事態であれば7700など特定のコードも決まっており、優先対応が必要な機体を識別するためのルールも定められている。
事故機からパイロットが脱出したことを知った管制官は、レーダー上で機体の位置を確認しようとしたが、1次レーダーの航跡を見失ったうえ、トランスポンダの反応も得られなかったのである。
1次レーダーで見つからなかった理由は、F-35Bがステルス機であったこととは関係なく、
・脱出高度が1000ftという低空であったこと
・悪天候によるレーダー探知能力の減衰
が影響している可能性がある。
トランスポンダの応答がなかったことについては、米海兵隊によると、なんらかの事情で作動しなかった模様だとしており、故障したか、パイロットが正常に作動させていなかった可能性もある。
また、一緒に飛んでいた僚機も悪天候下の視界不良で事故機を見失っており、そのまま事故機を探知できなかったことから考えると、軍用トランスポンダ(敵味方識別装置)や僚機間データリンクも機能していなかったようだ。
つまり、通常であればレーダーリフレクターやトランスポンダによってステルス機も管制レーダーに映るのだが、悪天候やトランスポンダの不作動などが重なって、行方不明になってしまったということだ。
航空機を代表とする交通システムでは、安全性を確保するために二重三重の備えがあるものだが、そのひとつひとつにヒューマン・エラーを含む脆弱(ぜいじゃく)性があり、簡単にミスや悪条件が重なって崩壊するものである。