ANA「純利益894億円」の喜びも束の間、いまだ残る「国際線復活」「人材確保」という大きな壁

キーワード :
,
ANAホールディングスは4月27日、2023年3月期連結決算で純損益が894億円の黒字へと転換したことを発表した。今後の課題と展望とは。

政府支援による減税も固定費削減に

ANA航空事業における収入と費用の推移(画像:ANAのデータを基に筆者作成)
ANA航空事業における収入と費用の推移(画像:ANAのデータを基に筆者作成)

 国土交通省は経済活動を支える航空ネットワークを維持するとともに、航空・空港関連各社におけるコスト削減等の収支改善の取組を前提としつつ、2020年より約700億円を予算に組み込んでいる。

 具体的には、次のような支援策が2022年度に航空会社へ実施されている。

●空港使用料・航空機燃料税の減免
・国内線の着陸料・停留料・航行援助施設利用料について、合計で約60%軽減
・航空機燃料税の税率をコロナ前の1万8000円/klから1万3000円/kl等へ軽減

 上記の表の2022年度と2019年度の空港使用料を比較すると、政府からの減免支援により、固定費(営業費用)の大幅削減となっていることがわかる。一方、「燃油費・燃料税」については減免効果は数字に表れず、逆に2019年度より若干の増加が見られる。これは円安に加え、ロシアウクライナ情勢による原油価格高騰の影響を大きく受けたことが要因となっている。2022年の燃料サーチャージの空前の高騰は記憶に新しい。

 これらの支援は、現段階で2027年度までの実施を予定している。航空需要の回復とともに軽減率を正常に戻していくことになるため、各社は段階的に増収やコスト管理の徹底等で増収を図らなければならない。

 また、従業員数の減少にともなう人件費減少にも着目したい。日系航空会社は外資系エアラインのようにレイオフ(一時解雇)は行わずに、関連企業や外部への出向等で雇用を守った。しかし、長引く賞与や賃金カットで自然退職も多く、さらに新規採用の中止もあり、2022年3月時点での従業員数は前年度と比べて

「4384人」

の減少となっている。

 2022年度は政府による全国旅行支援制度や減免効果もあり、大きな特需が生まれた。一方で政府の支援は一過性だ。また、この3年間でリモート会議が浸透した影響で、出張などのビジネス需要はコロナ前と同じようには戻らない。

 現在行っている「ANAにキュン」などのANA独自のキャンペーンや、国際線の復便など今後は需要回復、収益拡大に向け、航空会社それぞれの努力で利益を生み出していく必要がある。

コロナ収束に向けて、国際線復活の兆し

飛行機(画像:写真AC)
飛行機(画像:写真AC)

 コロナ以前、インバウンド需要が年々増加していた日本は世界の観光大国となりつつあり、東京オリンピック開催で五輪特需が起こるはずだった。ANAもJALも、国際線増便に向けての人員の大量確保に奔走し、日本中が期待に胸を膨らませていた。

 しかし、コロナウイルス感染拡大により、特需どころか前代未聞の大不況に襲われることとなった。今回のコロナに限らず、航空ビジネスは為替の影響や燃料費の増減など、損益が

「外部要因」

に左右されやすく、収益予測が困難な一面がある。

 5月5日、世界保健機関(WHO)は2020年1月より3年3か月にわたって出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言した。日本でも ゴールデンウイーク明けの5月8日から、コロナウイルスの位置づけが「5類」へと移行した。

 2023年度はこれにともない、2022年度後期から続く国内レジャー客のさらなる増加、また、水際対策の撤廃に加えて円安の後押しでインバウンド需要の復活が予測できる。コロナの長いトンネルをようやく抜けるときがきたのだ。

 2023年度下期には、ANAグループ第3のブランドで、生まれ変わった「AirJapan(エアージャパン)」も就航予定だ。この3年間耐え抜いた航空業界の今後の飛躍に期待したい。

全てのコメントを見る