日本の「無人サービス体験」が生むストレスフリーな観光価値【連載】平和ボケ観光論(9)
インバウンドの93.7%が利用し9割超が満足――自販機やセルフレジに象徴される無人サービスは、日本の治安と倫理観を背景に「人がいない安心」という新たな観光価値を創出した。省人化は効率化を超え、旅の質を底上げする競争力となりつつある。
日常への同化がもたらす自律した旅の自由

富裕層向けのビジネスでは、至れり尽くせりのもてなしを揃える「足し算」の体験が重んじられる。もちろん日本にも豪華な旅の選択肢は存在するが、この国を繰り返し訪れるリピーターたちが求めているものは、少し趣が異なるようだ。
彼らが惹かれているのは、むしろ他者からの干渉が削ぎ落とされた旅ではないか。こうした「引き算」の旅をさらりと実現できる土壌こそが、今の日本の魅力であり、異国情緒を強く感じさせる要素となっている。これまでの観光が客を特定の道筋に囲い込み、行動を縛りがちだったのに対し、ここでは自分の判断ひとつで動ける自由を存分に味わうことができる。
その象徴ともいえる光景が、銀座の街角にある。2023年10月に開店した「オーケー 銀座店」には、連日のように多くのインバウンドが詰めかけている。並んでいる弁当やパンの安さに目を見張り、それらを買い求めてホテルでゆっくりと口にする。その姿は、用意された観光客向けの枠組みを飛び出し、現地の生活者と同じ地平で自由を謳歌しているようにも見える。
こうした「日常への同化」がもたらす心地よさは、理屈抜きの愛着を生み、再びこの空気に触れたいと思わせる好循環を作り出している。周りを気にせずひとりの個人として歩き回れる環境は、他国ではなかなか真似のできない、贅沢な体験といえるだろう。