日本の「無人サービス体験」が生むストレスフリーな観光価値【連載】平和ボケ観光論(9)
治安の良さを物語る無言の接客拠点

日本は世界でも指折りの「自動販売機大国」であり、人口あたりの設置台数では群を抜いて世界一を誇る。初めて日本を訪れたインバウンドが街中に溢れるその数に目を見張るのも、無理のないことだろう。2020年2月に発表されたJR東日本ウォータービジネスの調査によれば、インバウンドの93.7%が日本で自販機を一度以上は利用したと答え、利用者の9割を超える人々がその体験に満足しているという。わざわざ店に入らずとも、手近な場所で飲み物を手に入れられる気軽さは、移動の多い旅行者にとって大きな安らぎとなっているはずだ。
この高い満足感の背景には、使い勝手の良さを超えた、社会に対する強い信頼がある。屋外に置かれた高価な機械が略奪もされずに守られている光景は、日本の治安の良さを物語る生きた指標にほかならない。また、暗い夜道で自販機が放つ明かりは、そこが適切に管理されていることを示し、歩く人の不安を和らげる役割も果たしている。
多くの国では、壊されることを防ぐために多額の費用をかけて備えなければならないが、日本ではこうした負担を負わずに運用ができる。利用者は自販機という存在を通じて、ある種の無防備ともいえる日本の信頼関係を肌で感じ取っているのだ。
並んでいる品物も、単なる飲料だけではない。土産物や「自販機BASE」で扱われるご当地トランプ、2025年2月に開店した「ジハン・キホーテSHIBUYA店」で見られる一蘭のカップ麺、さらには浅草の「WASAKE Sake Experience」が提供する50種類以上の日本酒に至るまで、その幅は驚くほど広い。
多種多様な品が無人で提供され続ける仕組みは、買い手がルールを守るという社会全体の意識があってこそ成り立つものだ。街角の自販機は、日本の社会的な安定を旅行者に伝える、無言の接客拠点となっている。