宇宙が“制御不能”に近づく日――衛星1万基時代、なぜ衝突リスクは急増しているのか?

キーワード :
人工衛星は10年で1000基から1万基超へ急増し、10万基時代も視野に入る。過密化する軌道空間では衝突リスクが常態化し、宇宙交通管理(STM)の整備が不可避となっている。デブリ100万個が漂う中、宇宙は新たなインフラ設計の局面に入った。

未開の空間から軌道ラッシュの時代へ

地球低軌道のイメージ(画像:宇宙航空研究開発機構)
地球低軌道のイメージ(画像:宇宙航空研究開発機構)

 冷戦期の黎明期から商業利用が始まった頃まで、夜空を回る人工衛星はせいぜい数百基に過ぎなかった。2010年の時点を振り返っても、運用されていた衛星は約1000基。当時の宇宙はまだ広大で、衝突のリスクを真剣に案じる必要はほとんどなかったといえる。

 ところが今、その景色は一変した。運用衛星の数は1万基の大台を突破し、その大半が高度400~1200kmのLEOにひしめき合っている。この急増を後押ししたのは、インターネット通信を目的とした巨大な衛星群だ。その筆頭がスペースXのスターリンクである。数千基もの小型衛星を網の目のように配置するメガコンステレーションは、世界中に低遅延の通信をもたらしたが、引き換えに軌道上の混雑を加速度的に進めてしまった。

 人工衛星同士が異常接近する事象は、ここ数年で跳ね上がっている。宇宙機関が追跡する衝突リスクの数字は、数年前とは比較にならないほど大きい。かつてのように各事業者が自分たちの衛星だけを見ていれば済む時代は、もう終わりを迎えつつある。これからは、より高度な交通管理の仕組みが欠かせなくなるだろう。

 衛星の密度が高まるなかで、現実味を帯びてきたのがケスラーシンドロームと呼ばれる連鎖衝突のシナリオだ。一度衝突が起きれば、飛び散ったデブリ(宇宙ゴミ)が次なる衛星を襲い、破片がねずみ算式に増えていく。最悪のケースでは、特定の高度が長期間にわたって使い物にならなくなる恐れすらある。

 現在、軌道上には1cm以上のデブリが約100万個、1mm以上ともなれば約1億個が漂っていると推測される。秒速7kmを超える猛スピードで飛び交うこの環境では、たとえ砂粒のような破片であっても、衛星を一瞬で破壊する凶器に変わる。

 さらに厄介なのは、デブリが消えるまでの時間の長さだ。高度600km以下であれば数年で大気圏へ落ちて燃え尽きるが、それより高い場所では数十年、時には数世紀も残り続ける。衝突が繰り返されるたびに宇宙環境は蝕まれ、次世代の宇宙利用に拭いきれない禍根を残すことになる。

全てのコメントを見る