超高級SUV、本当に必要? なぜ「オフロード」にこだわる? 「走破性」という名の過剰スペック、富裕層を魅せる美学とは
ショーファーカー化するSUV

銀座や青山の大通りには、ロールス・ロイス・カリナンやベントレー・ベンテイガ、ランボルギーニ・ウルス、フェラーリ・プロサングエといった数千万クラスの超高級SUVがひしめく。SUVのスタイルを採用しながらも、洗練された内外装や充実した後席の快適装備により、従来のショーファーカーに匹敵するラグジュアリー性を実現している。
見た目はSUVのフォルムを踏襲しているが、本質はショーファーカー(運転手付きで使用されることを前提とした高級車)そのものだ。一方で「オフロードも走れる」といった走破性が強調され、険しい未舗装路を走るかのようなイメージが与えられる。あらゆる環境に対応できる万能かつ威厳ある存在という幻想を演出するために、あえて冒険的な走破性が語られている。
静粛性と格式を重視するショーファーカーの価値観と、自由な移動を象徴するSUVの世界観が、一台のクルマのなかで交錯する。この構造的なねじれこそが、
「ラグジュアリーSUV」
という新ジャンルの本質だ。カリナンやベンテイガのような高級SUVは、オフロードでの走破性をアピールするが、実際にその機能が活用されることはほとんどない。未舗装路を走ることのない日常では、その性能は単なる象徴的なものにすぎない。
ではなぜ、ショーファーカーを手がけるブランドがSUVのスタイルを採用し、走破性を強調するのか。その背景には、実用性ではなく
「潜在力のあるスタイル」
を求める富裕層の価値観がある。ショーファーカーやスポーツカーでは得られない万能性の演出こそが、選択の理由になっている。
それでも、ショーファーカーの本流は今なおセダンだ。ロールス・ロイスやベントレー、メルセデス・マイバッハといったウルトラ・ラグジュアリーブランドのロングホイールベース・セダンは、その象徴的存在であり、後席の快適性と静粛性を最優先に設計されている。